錬金術科の勉強で忙しいので邪魔しないでくださいSS置き場
さよ吉(詩森さよ)
10万PV感謝記念SS
『Holy night』前編
2学期最終日。
このところ冬休みが始まるせいか、みんな少しだけソワソワしている。
私もすごく楽しみなんだ。
クランマスターがこの冬休みの間、すべての仕事をお休みしてセードンに行っていいっておっしゃってくださったから。
母さんも辺境のカーレンリース領から戻ってきたみたいだし、セードンの湖が凍ってアイススケートという遊びが出来るんだって。
モカが前世で何回かやってて、教えてくれるって約束してくれた。
でもスケート靴を作らなきゃいけなかったけど。
モカが描いてくれた絵と、モカの足が噛み合わなくて(だって絵は人間用だったもの)クマ用に作るのが結構苦心したんだ。
ミラ用はさすがに作れなかったんだけど、ミラの入るポケット付きの防寒着を作ったら、嬉しかったのかとときどきそのポケットに入ってるの。とっても可愛い!
モカが言うには、ミランダはイメージトレーニングしているらしい。
そのトレーニングが必要なのかは定かではないけど、それくらい楽しみってこと!
今年最後の音楽レッスンにレオンハルト様を訪ねると、
「トールセン、ホーリーナイトと言うのを知っているか?」
「ホーリーナイトですか?みんなが話題にしているので少しだけ知っていますが良くは知りません」
「いまのところ王都とその周辺ぐらいしか行っていないからな。これは勇者の国のお祭りなのだ。別名クリスマスともいう。特別な人と共に過ごして神に感謝を捧げる日なのだ。毎年12月24日に
あっ、もしかして……
「トールセンのフルートもかなり上達したことだし、その礼拝に音楽隊として参加してくれないか?」
やっぱり!
「そうなると、練習も必要ですよね」
「そうだな。私は聖歌隊の練習も見なくてはならないが、君もここで特訓してほしい。演奏は姿を見せずに行うのでいつも通りでいてくれれば、君が目立つこともないだろう」
もちろん、断れなかった。
私はラインモルト様のご厚意で、無料で音楽のレッスンを受けているのだ。
こういう機会にお返ししなくてはならない。
「ニールは遠いから田舎に帰れなくて寂しいだろう。ホーリーナイトは皆家族水入らずで過ごすからな」
そうか、レオンハルト様は気を使ってくださったんだ。
「ありがとうございます。レオンハルト様」
レッスンを終えて学校に行くと、皆の話題も冬休みとホーリーナイトの話で持ちきりだった。
遠方出身のマリウスは同じ騎士学部専攻の友達のところに招待されたそうだ。
ジョシュは2人になったときに教えてもらったんだけど、その日に王宮でパーティーがあるんだって。それに合わせた庭仕事を手伝うので忙しいそうだ。
「でも夜は家族でのんびりできるし、いいんだ」
25日が休日で乗合馬車がお休みなので、26日以降にならないとセードンに行けない。従魔たちはとても残念そうだった。
「ごめんね、わたしのせいで」
「行けなくなったわけじゃないし、別に大丈夫」
「そうよ。それにエリーのせいじゃないわ」
「にゃう!」
ミランダが少し大きくなって、みぃからにゃーになりかかっている。
これも早く父さんに知らせたかったな。
とにかく私は音楽のレッスンに精を出すことにした。
音楽を学ぶことはとても楽しい。
でもやっぱり早く父さんと母さんに会いたかった。
レオンハルト様だけでなく、ジョシュにも、他の人にもウチの家族がセードンに移住したことは内緒なのだ。
今も出奔中の母さんが王都から半日のセードンにいるなんて知られたくないからだ。
父さんの手紙ではお店の場所も決まってオープンしたけれど、母さんには裏方の仕事をしてもらうそうだ。
前みたいに接客していたら、いつ何時母さんの知り合いが店に現れるかわからないもの。
だから私は田舎に帰れない子どもとして、何事もなかったようにレッスンに励むのだ。
◇
「なんだかエリー、寂しそう」
「しょうがないよ。冬休みはずっとおじさんとおばさんと一緒って喜んでたんだから」
「にゃーう」
エリーの三匹の従魔ドラゴ、モカ、ミランダは空元気のエリーを心配していた。
「モカ、そのホーリーナイトって異世界ではどんなだったの?」
「そうねぇ、子供向けと大人向けがあるけどどっち?」
「エリーはまだ子供だから子供向け」
「じゃあ、イギリス式の方がいいね。
まずはクリスマスツリー。大きなもみの木に星とか、丸い玉とかきれいな光る飾りをたくさんつけるのよ。
それでその下に家族や親せきからもらうプレゼントを置いておくの。
あと当日会えない友達から、クリスマスカードが届いてそれも飾っておくの。
それをクリスマス当日にみんなで開けて見せ合いっこするのよ。
それからクリスマスディナーね。
ローストターキーにクリスマスケーキやプディング。ご馳走でいっぱいよ。
あたしは日本人だからクリスマスプディングは甘すぎて苦手だけど、おじいさまはお好きだったわ。
それからピアノ。おばあさまがクリスマスの有名な曲をいっぱい弾いてくださるの。私たちはそれに合わせて歌ったり踊ったりしたわ。
おにいちゃんがダンスの時、ふわっと持ち上げてくれて、すごく楽しかったわ」
「ふーん、その中で僕らが出来そうなのって、クリスマスツリーとプレゼントとローストターキーかな」
「ツリーは任せといて!あたしが庭師として最高のものを作っておくわ」
「じゃあ、ターキーってどんな動物なの?」
「鶏でもいいの。だからコッコ捕りに行く?」
「それ行こう!」
そして、コッコのいるパテント山では阿鼻叫喚が響き渡った。
「これでお肉は用意できたね」
「ローストチキンの中身はリンゴが美味しいんだ」
「金色のリンゴを守ってる蛇がいるってウィル様が言ってたよ」
「それだ!」
「ヘビは魔法耐性持ちで回復魔法も出来るからモカ担当ね。モカが相手している間に雑魚敵はぼくが倒すから、ミラは風魔法でリンゴを傷つけないように落とすこと。
それをぼくがこの風呂敷に包んで持って帰る。いいね?」
そう言って、ドラゴは緑色に唐草文様の風呂敷を広げた。
「顔を見られるとヤバいから、皆もこれでほっかむりするんだ」と同じ唐草文様の手ぬぐいを取り出した。
「ラジャー!」
「にゃう!」
「「「レッツゴー!」」」
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