『Holy night』後編


 ドラゴとモカとミランダは、ヘスペリデスの庭の前に転移した。

 庭に侵入すると、泥棒を排除するためにヘスペリデスのヘビが現れた。

 ヘスぺリデスのヘビはラドンと言う守護聖獣で5つの首を持ち、それぞれが火風水土樹の5つの属性をもっていて魔法耐性があった。

 

 モカは先手必勝とばかりに問答無用で襲い掛かった。

 ~~~~~タコなぐり~~~~~‼


 ― あまりに乱暴のため描写は割愛させていただきます。ご了承ください ―



 モカは完全に意識を失ったヘビの5本の首を5つ編にし、鞭に使った特製の蔓でグルグル巻きにして動けなくしておいた。意識が戻ってもすぐに追いかけてこないためだ。



 他にもいた小さなニンフ雑魚敵たちはドラゴが眠らせてしまい、ミランダの落としたリンゴを風呂敷に包んだ。

「逃げるよー」

「はーい!」

「みゃぁー!」



 ミランダがドラゴの懐に飛び込んで、3匹は同時に転移した。



 とってきた材料の調理はもちろんルードに頼んだ。

「パテント山のコッコに、ヘスぺリデスのりんごですか。これでローストチキンをホーリーナイトに作って出せばいいんですね?」

「「「お願い!(にゃー!)」」」



 これでご馳走の準備は万端だ!



 翌朝エリーを教会まで送った3匹は次なる計画を立てはじめた。

「よーし、チキンは済んだから次はプレゼントだ!」

「エリー、何が欲しいかな?」

「みにゃー」



 3匹が次のプレゼント用の宝物探しの相談をしていると、後ろからザバッと拘束バインドで3匹まとめて捕まえられた。



 恐る恐る上を見上げると、ビリーが腕を組んで不敵な笑みを浮かべていた。



「あ、ウィル様?」

 モカとミランダは声が出ない。ものすごい威圧がかかっているからだ。


「俺の友達のヘビのところにな、唐草のほっかむりをした泥棒が現れたそうだ」

「へぇ~~~~」

 3匹は銘々にビリーから目をそらした。



「その泥棒は3匹でな、1匹は小さいヒト型で、次は小さいクマ、最後は子猫だったそうだ。どっかの誰かさんたちにすごく似てるよな」

「へぇ~~~~」

 威圧が更に強まり、3匹は冷や汗をかき始めた。



「俺の友達はなかなかの怪我を負ってな。

 どうやら乱暴者のクマにタコ殴りにされたらしい。

 回復魔法が出来るので怪我はすぐ治ったが、パンみたいに編まれてる上におかしな蔓がまとわりついて動けない。

 しかもニンフたちを全部眠らせたままで逃げられて、相当苦しかったらしく俺に助けを求めてきた」

 威圧が強すぎて、もうドラゴも返事できなかった。



「ゴラァーーーーーー!いたずらにも程があるだろうが‼

 お前ら全員お仕置きだぁぁぁー!!!」

 ビリーが特大の雷を落とすと、そこには累々と倒れた3匹の姿があった。



 ビリーは即座に回復魔法をかけ3匹を正座させた。

「俺の友達は心が広い。樹には傷を付けなかったし、リンゴさえ返せば許すと言っている。リンゴはどこだ?」

「ルードんとこ」

「ルードのところのだと1つ足りない」

 ドラゴとミランダがモカを横目で見た。


「えっとー、あのー、あたしの庭に1つ植えちゃった。もう芽が出てるんだけど」

「返せないってことか」

「うーん、芽が出ててもいいなら返す」

「わかった。交渉する。多分実をしばらく納品しないとだめだな。あと萌香の庭の警護を強化する。

 いいかお前ら、エリーは自分のためにお前らが泥棒したと知ったら悲しむぞ」

「「「ごめんなさい(みにゃう)……」」」


「代わりのリンゴはもうルードに渡してあるから、ローストチキンの心配はしなくていい」

「「「ホント(にゃ)⁈」」」

「これから、謝罪と償いだ。わかってんだろうな」

「「「……はい(にゃー)」」」

「元気の有り余っている乱暴者にふさわしい罰だ。ついてこい」



 そして、3匹は謝罪と償いの大掃除を行った。



 大掃除とはヘスぺリデスの庭になるリンゴを狙った姿かたちのとれない魑魅魍魎どもの退治だ。

 この庭のリンゴは不老不死が得られる力があり、呪われた魂たちが力を取り戻すために狙っている。

 そいつらを普段はラドンとニンフたちが退治していたのだが、3匹のせいですっかり増えてしまったのだ。


 モカはそれを聞いてゾッとした。

 自分の庭にこいつら魑魅魍魎がやってくるなんて嫌すぎるからだ。



 大掃除は筆舌しがたい困難さだった。やってもやっても魑魅魍魎共はいなくならずにしつこいからだ。

 疲れて倒れても即座にラドンに回復魔法がかけられて、休むことは許されなかった。





 ◇






 私が本番前日のレッスンから終わると3匹の従魔の姿がなかった。

 名前を呼んでも誰も転移してこない。

 一人で帰ろうとすると、後ろから帽子を目深にかぶったルードさんから声を掛けられた。



「エリーさん、お迎えに上がりました」

「あの、ルードさん。ドラゴ君とミランダとモカがいないんですけど何かご存知ですか?」

「ああエリーさん、あの子たちはマスターのお手伝いに行ってます」

「そうなんですか。控室になら従魔を入れていいって、レオンハルト様から許可をもらったから明日の礼拝に連れていきたかったんです」

「それならマスターに連絡しておきます。進捗次第ではきっと連れていけますよ」

「よろしくお願いします」






 ◇






 本番当日の朝になって、3匹は戻ってきた。

 とっても疲れているようだったが、怪我などはなかった。よかった。



「みんな、お疲れ様。マスターのお手伝いしたんだって?偉かったね」

「「「う、うん(みぃ)」」」

「何したの?」

「えーと。お掃除かな」

「ミラもちゃんとできた?」

「みにゃう……」

「頑張った3匹に私からプレゼント。はい、どうぞ」

 3匹に合わせたプレゼントを銘々に渡す。



「開けていい?」

 モカがそういったので、私はOKした。

 それで3匹は茶色い包み紙を開けた。



「「「わぁ、マフラー(にゃー)!」」」

 ドラゴ君は青、モカは赤、ミランダは緑。私は白のおそろいの手編みマフラーだ。

「みんなは寒さに強いけどすこしでもあったかくしてほしかったの」

 私がにこにこすると、3匹は少し涙目になって抱きついてきた。



「どうしたの?」

「あのね、ぼくらの掃除結構大変だったんだ」

「だからね、あたしたちちょっとだけエリーに甘えたいの」

「みぃ~」



 私は3匹をしっかり抱きしめた。

「今日の本番はぜひ来てほしいの。私もソロでフルート吹くし、ソフィアも歌うのよ。それがとっても素敵なの」

「「「うん(にゃ)」」」

「それが終わったら、クランでご馳走を食べるのよ。それからマスターが私たちをセードンに送ってくださるの。1日早く着くのよ。楽しみだね」



 みんなはもじもじして、しおれた花のようにこうべを垂れた。

「ぼくらね、本当は悪いことしちゃったんだ。そのお仕置きだったの」

「だから、反省しなきゃいけないの」

「みぃ」

「そうなの?でもマスターは3匹としっかり遊んでおいでって言ってくださったわ。もっと反省が必要ならきっとそうおっしゃるわ。もう許してもらったのよ。

 だから目いっぱい遊ぼうよ」



 私が3匹をさらに強く抱きしめると、みんなもしっかり私に抱きついてきた。



 今夜の礼拝もご馳走も、明日からのセードンも楽しみだなぁ。

 初めはちょっと落ち込んだけど、待った分だけさらに喜びが深まっていく。



 ヴェルシア様、こんなに幸せにしていただいてありがとうございます。




 ◇



 星の煌めくホーリーナイト、今夜は楽しいクリスマスイブ。

 トナカイの曳く空飛ぶそりに乗った1人の少女と3匹の従魔たち。

 彼らの笑い声に彩られて、聖夜はますます更けていくのだった。




(10万PV感謝記念SS 『Holy night』 おしまい)


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2/10 改稿いたしました。






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