第127話 金策に悩む


 クランマスターがずっと不在で借金のことを話せなかったので、クララさんと治療費について話し合った。

『常闇の炎』としての通常の治療費としては20億ヤンぐらいになるそうだ。

 ただし、正式な金額は治癒をしたクランマスターが決めるのでいくらになるかわからないそうだ。

 あの金貨を交換したお金が12億ヤンだからあと8億あればいい。

あのザクザク宝石売って、多少は補填できるだろうか?



 ニールに帰ってあの隠し部屋のお金を取りにいくのもいいかもしれない。

 両替せずエルフの金貨のまま渡せばいい。

 ダンマスとも話をしたかった。

時々中身のわからないカプセルを開けようとするのだが、うんともすんとも言わないからだ。

 でももう私たち家族はあの土地を離れるんだ。スライムダンジョンのためにニールほどの距離を行くのは怪しまれないだろうか?



 それに行くなら来年まで無理だ。

 片道14日、往復にひと月は休みがないといけないからだ。

 でも急な引っ越しでラインモルト様にもご挨拶できてないし。後援していただいているのだからちゃんとしなくちゃ。

 でも今回のこともあって子供の一人旅はあまり推奨されないだろう。

今も王都ですら独り歩きしてはいけないんだから。



 金策に悩む間もなく今までやってなかった新しい仕事が舞い込んできた。

発案はビアンカさんだ。何でも、

「エリーちゃんが夏休みの間、アタシの渾身のドレスを着せようと楽しみにしてたのに、あんな事件がおこったでショ。いっぱい作りためてあるから、是非着てもらわなくちゃネ」

 ビアンカさん、注文が絶えないデザイナー兼仕立て屋ですよね?いいんですか?遊びでそんなことして。

「アラ、いいにきまってるじゃナイ。それにこれにはいい案があるの」



 その案というのが、ビアンカさんの指示通りに私がその服を着てその姿を魔導写真に残すのだ。

 そして、その写真で本(カタログというそうだ)を作って参考にしてもらうことで、より依頼主の希望に沿ったドレスを作ることが出来るのだという。



 今まではビアンカさんがそれまでの依頼主の好みに沿ったものを提案していたが、流行は常に変わるし試作品を3つも作って1つしか売れないなんてこともあったそうだ。

 それならいっそ私でいろんなパターンのサンプルを作ってしまえば、無駄な試作品を作らなくていいし、作りたいものも作れるし、生地の量も節約できるし、私の着せ替えも出来るし、一石四鳥(最後のは蛇足だと思う)というわけだ。



 でもカタログを作ることで、初めてのお客様でも注文しやすくなったし、固定客でも新しいデザインに挑戦する方も現れたんだって。

 もちろん、一からビアンカさんにデザインしてもらわないと気が済まない方々も一定数いるから、そちらはカタログなしで対応する。



 だから私は子供から大人までの様々なデザインのドレスや乗馬服、部屋着やもちろん少年の服もいっぱい着ることになった。

 この魔導写真の撮影が本当に大変で、時々飛ぶビアンカさんの「もっと華やかに!」「愁いを込めて!」「溌剌と!」なんて注文には本当参った。

 演技スキルを取れていたおかげか、本の中の人物になったようにふるまうことで何とかなった。

 それにしても「蠱惑的に」「妖艶に」とか10歳で出来てたんだろうか?



 でもとりあえず私の着せ替えが出来たことでビアンカさんは上機嫌だ。

一緒にかわいい私の従魔たちも写すことにもなった。



 モカとはおそろいのドレスを着たし、ミランダをかわいがる貴族令嬢とか、弟に扮したドラゴ君を馬に乗せる少年とかもした。おかげで乗馬スキルが取れてしまった。

 みんな可愛かったので記念に集合写真も撮ってもらった。嬉しい。寮に飾ろう。



 ビアンカさんとも撮りたかったのでお願いしたら、

「ごめんネ。アタシこの手のものに写らないの」

「どうしてですか?」

「そりゃ、ヴァンパイアだからネ。普通の鏡くらいなら映るんだけど、魔法がかかってるやつは無理なの」

 ええーーーー?あのじゃれるヴァンパイアですか?



「あのヴァンパイアって日光がダメって聞いてるんですけど……」

「まあネ。得意じゃないけど溶けたりしないワヨ。だいたい日焼けは美容に良くないし」

「ご飯もいっぱい食べますよね」

「当たり前じゃない。食べなきゃ血がいるでしょ。アタシくらいになったら血なんて滅多にいらないけどネ」

 はぁ~そうなんだ。


「でも同じヴァンパイアでも下等な奴は血を欲しがるから気をつけてネ。ヴァンパイアは美形好みだから」

 私は地味だと思うけど、ビアンカさんはこの顔を気にいってくれてるし、気を付けよう。



 金策に悩んでも勉強も大変だし、クランの仕事も多い。

それに私は外で仕事するより、ここで仕事したいんだ。

流浪の民になんかなりたくない!



 でも貴族たちからの私の評判は最悪だ。

こんなのどうやって汚名返上したらいいのか全く分からない。

私がいるだけでクランにご迷惑をかけてしまうかもしれない。



 きっとマスターはそんなこと気にされないだろう。

でもこれ以上甘えていてはいけないのだ。

そう自分に言い聞かせながらも、迷いは晴れなかった。



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10万PV感謝記念SSを前後編アップしました。ありがとうございました。

ご興味のある方はどうぞご覧ください。


「Holy night」


前編)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054893085991


後編)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054893086337






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