第2話 過去

それは、ニコが高校一年の夏。

バイトで遅くなった雨あがりの帰り道。

ニコは、突然男達に取り囲まれた。


「!?」


相手は五人。

いつもニコに喧嘩をふっかけてくる地元の不良達だった。

いつも相手している三人だけなら、撃退も出来ただろう。

だが、その夜の相手は五人。

知らない顔が二人混じっていた。

罵声を浴びせられながら、必死に応戦するも、男五人相手に、敵うはずもなく、間もなくニコは拘束された。


「なあ乃木、泣いて謝るなら、許してやってもいいんだぜ?」


ニヤニヤしながら言われて、ニコは反射的に睨み返した。

気持ちまで負けたくない。

そう思っての事だったが、そんなニコの態度が、男達にはカチンときたらしい。


「お前っ、自分の立場がわかってねえみたいだな」


いつも相手にしている不良の一人が、怒りをあらわにしてニコの腹を殴り付けた。

痛みに思わず呻いたニコを見て、男は満足そうに笑った。


「乃木ぃ、お前さあ、女のくせに俺らにたてつくからそういう目に遭うんだぞ」


「そうそう。今から教えてやるよ。お前が女で、俺らが男だって事をさ」


ヘドが出そうだとニコは思う。

男五人がかりで女一人を暴力で屈させるなんて、どう考えてもクズの所業だろう。


「お前ら経験ねえんだろ?俺に任せとけ」


ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべながら、見知らぬ男がニコの前に立った。

瞬間、鳥肌が立った。


「何する気!?」


「あぁ?決まってンだろ」


見知らぬ男が、ニコの唇を塞いだ。

気持ち悪さに耐えかねて、ニコは相手の唇を思いっきり噛んだ。

血の味が口の中に広がる。


「てめぇ!何しやがる!」


逆上したのだろう男が、ニコの頬を平手で叩き付けた。

口の中が切れ、血の味が広がった次の瞬間。


「っ!?」


衣服がナイフで乱暴に切り裂かれた。


「大人しくしてろや。でねえと、次はてめえの顔、傷付けるぞ」


耳元で囁かれた冷酷な声に、サーッと血の気が引く。

男の目は本気だ。

抵抗すれば、何をされるか分からない。


「ははっ!乃木ぃ、お前、いいツラじゃねぇか」


「怯えた乃木なんて初めて見たぜ。ははっ!もっと早くこうしときゃ良かった!」


見慣れた不良男子生徒が、愉快そうに笑う。

いつもなら負けないのに、今は抵抗すら出来ない。

ニコは、屈辱と恐怖とでごちゃまぜになった頭で考える。

この状況を、なんとか切り抜けるすべはないか。

どんなに考えても、逃げ出せそうにはない。

両腕はガッチリと捕まれて、もがけば容赦なく拳が飛んでくる。

単なる不良だと思っていたが、まさかここまで非道な事をやるなんて思っていなかった。

ニコの心が恐怖で満たされるまで、さほど時間はかからなかった。


「大人しくなったか。じゃあ、お楽しみの時間といきますか」


今日初めて見る男二人のうちの一人が、下卑た笑いを浮かべて近づく。

引き裂かれてた衣服からのぞく胸を、舌が這い回る。

その感触の気持ち悪さに、吐き気が込み上げるが、辛うじて耐えた。


「乳首たってんじゃん。ははっ、感じてんの?じゃあ、こっちも......」


男の手が、下へ動いた。


「やっ!」


反射的に身をよじるが、男はお構いなしに下着の中へ手を入れた。

クチュクチュと音をたてて、中がかき回される。

不快で堪らないのに、体は反応している。

その事実が余計にニコを絶望と羞恥に追い込んだ。


「やーらしい。こーんな濡らしてさぁ。お前、淫乱だなぁ。何?ほんとは期待してたわけ?」


くくっと楽しそうに笑う男の言葉に、カァッと顔が熱くなる。


「そんなわけないでしょ!」


「えー?でもさぁ、体はそうじゃないみたいだぜ?ほぉら」


楽しそうに、男がニコの中をかき回す。


「っ!!!!」


身体中に感じたことのない痺れが走る。

今まで自分でさえ触ったことのない部分を他人に触られる気持ちの悪さと、感じたことのない未知の感覚が同時に襲ってくる。

ニコは、堪らずに声をあげた。


「やぁっ......、やめ......て」


プライドなど、最早瓦解している。

ただもう、この状況から抜け出したい。

それだけだった。


「その半泣きの表情、たまんねぇ。そそる」


男の指が、なおも激しく中をかき回す。

次第に頭が真っ白になっていき、ニコは思わず声をあげた。


「あっ!ああっ!!」


頭の中がスパークした。

何が起きたのか、分からない。

ニコは自分に起こったことが理解出来ず、ただ真っ白に染まった頭がクラクラするのを感じていた。


「ははっ!イッたか?えっろいなぁ。たまんねぇよ」


先程まで指で中をかき回していた男が、くったりとなったニコを前に、下卑た笑いを浮かべた。


「なあ、お前だけ気持ちよくなんのズルいだろ。今度は俺の番な」


次の瞬間、ニコは下着を剥ぎ取られたかと思うと、さっきまでかき回されていたところを、唐突に大きな異物で貫かれた!


「っっっ!!!!」


痛みで意識が飛びそうになる中、必死で何が起きたのか理解しようとする。

男が、ニコの体にピッタリくっついて、さっきまでかき回されていたところに何かを突き刺している。

それが何か理解した瞬間、絶望感がニコを襲った。


犯された。


訳もわけらないまま。

ニコは抗う事も出来ず、男のものが体の中で動くのを感じて、吐き気を覚えながらも、それとは別に痺れるような感覚が身体中を走り抜ける。


「やっ!あっ!」


涙が出る。

痛さと、情けなさと、そして、何かわからない未知の感覚が、ニコを支配していた。


「きっつぅ!すげえしめつけんじゃん!気持ちいいぜえ」


ズンズンと、体の芯を貫かれる。

男が動く度、強烈な痛みと痺れが体を駆け抜ける。

ニコは抵抗も出来ないまま、男の行為を受け入れ続けるしかなかった。


何度それが繰り返されたのか。

人が代わり、繰り返される行為。

身体中を這い回る舌と手の感触。

そして、貫かれる感触。

繰り返されるそれに、気が遠くなり、ニコはもう何も考えられなくなっていた。


早く終わればいいのに。


それだけを思いながら、繰り返される行為に耐え続けた。


衣服をズタズタに引き裂かれ、道端に放置されて気を失ったニコが通りすがりの人に発見されたのは、夜が明けた頃。

再び雨が降りだした頃だった。

ニコはそのまま救急車で運ばれ、意識を取り戻すなり警察に事情聴取をされた。

そして、ニコを襲った不良三人と男二人は逮捕された。


蒸し熱い、雨の夏の日の事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きずあと~私が壊れた理由~ @72nanase

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ