遅咲きシンデレラ

みなづきあまね

遅咲きシンデレラ

「俺のこと、どう思ってますか?」


二人しかいない部屋でふいに飛んできた質問。息をのんだまま絶句した私を、彼は正面から微動だにせず見つめていた。


彼のことを意識し始めたのは、ここ2〜3ヶ月のことだ。今まで何とも思わなかったのに、よく話題に上がったり、仕事を共にするようになり、よく見たら端正な顔立ちと男らしい風格に惹かれた。


そんな気持ちを心の片隅に置きながら、普段と変わらない生活を送っていた。自分からアプローチをするわけでもなく、彼が馴れ馴れしくなったわけでもない。ただ単に前より接触する機会が増えた程度。


だから、いきなりこんな問いが来るなんて、さすがに予想外だった。


数分前彼は外から戻り、デスクワークにシフトするために休憩していた。既に定時は過ぎ、繁忙期でもないため、私と彼、そしてもう二人しか机に向かっていなかった。


一人が席を外し、私も退社の準備を始めていたところ、彼が明日以降やってほしいと業務を頼みにきた。その延長線上での一言。


「えっ・・・どうって。」


そう言いながらまだいるだろう他の人の方向を見たが、いつの間にか消えていた。彼はピシピシと伝わっていた緊張を解き、体を緩めた。


「いや、忘れてください。」


苦虫を潰したような顔をして踵を返しかけた彼に私はこう言った。


「最初は怖いなって思ってました。今でも話すのは緊張します。だけど、色々な話を聞いたりしてて、真面目で仕事も出来るし、素直ではなさそうだけど良い人って思ってます・・・それとも、男として好きかどうかってことですか?」


彼は私の最後の質問を肯定した。


「潔く、好きですって言えれば良いんです。でも、言えません。」


「どういう意味ですか?」


彼はいつも以上に冷たい顔をした。


「あと2週間くらいですぐに分かります。私がどうしようもないクズだって。頭がキレるから、少し考えてみればきっと私が何を言いたいか分かります。気持ちはすごく嬉しくて、本当に幸せです。でも・・・すみませんっ。」


我慢できず、私は駆け足で部屋を出た。


私はこの気持ちを歓迎出来ない。彼から直接告白の言葉を聞いたわけじゃない。でも、質問の意味はそういう意味だとは分かる。でも、私は応えられない。彼の気持ちにも私の気持ちにも。


約2週間後、私は結婚報告をした。婚約してから既に半年。彼は遅過ぎた。そして私も遅過ぎた。


報告後、なるべく彼の顔を見ないように過ごした。けれど、退勤時に下で一緒になってしまった。


「あの時の意味が分かりました。おめでとうございます。」


彼は嫌味さえなく、普通に祝いの言葉を掛けてきた。


「私、最悪ですよね。結婚間近に別の人にうつつを抜かして。こういう女なんです。だからむしろやめといて正解だと思いますよ。」


私はまだ彼の目をみられない。


「・・・そんなことないっすよ。俺は今でも変わらず、愛してます。無謀でも諦められないんです。」


彼は顔色ひとつ変えず、けれど目元はいつもより揺るがしながらそう吐き出して、足早に去った。


出会うのが遅過ぎた。彼はガラスの靴を見つけてくれる人ではないって分かってる。むしろ毒入りリンゴかな。


「愛してるって何なの・・・」


苦しい。乾いた床に涙が一粒落ちた。




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遅咲きシンデレラ みなづきあまね @soranomame

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