第2話 SNS

駅の近くの昔からあるという個人経営のカフェについた僕はカウンターに案内された。


駅の周りは、大型スーパーをはじめ、コンビニ、アパレルショップ、パチンコ屋等が短い間隔で並んでいて少し賑やかな雰囲気だけれども、どこか一昔前の時代を感じさせるこのカフェはこの街で僕の一番お気に入りの場所だった。


カウンターに案内された後、『ご注文はお決まりでしょうか』と声をかけてくれたマスターはもう、70歳はゆうに超えているだろうか。 口元に蓄えた髭と、きちんとジェルで整髪された頭髪はそのほとんどが白色に染まっていた。 背丈はそれほど高くないものの、細身でワイシャツにベストが非常によく似合うマスターはいつか自分が年老いた時はこうなりたいという理想的な老人だった。

マスターはおしぼりを渡してくれた後、『アイスコーヒーと、サンドウィッチのセットで』と応えた僕の声に『少々お待ちください』と愛想よく応えた。


僕は、先に出されたアイスコーヒーを一口口に含むと、ニュースアプリと天気予報に目を通し、その後また流れ作業のようにSNSアプリを開いた。


すると、朝送ったメッセージに返信が来ていることに気がつき、思わず胸の高鳴りを感じながら新着メッセージを開いた。


『おはようございます。返信ありがとうございます。 それでは、これから私と仲良くしていただけたら嬉しいです。 ちなみにヒロキさん(僕のSNS上の名前)って、いつ頃から釣りを始められたのですか?』


僕は、その問いに特に考えもせずに素早く返信を返す。『よろしくお願いします。釣りは僕が小学校の時に始めました。 最初は親父が連れていってくれたことがきっかけでした。 それから中学校、高校は部活動があったのであまり釣りは行けなかったのですが、大学に入ってから今に至るまではしょっちゅう釣りをしてます』


ちょうど、メッセージを返し終えた直後サンドウィッチがカウンターから手渡された。

しっかりとトーストされたタマゴサンドとハムサンドは非常に美味しかった。毎日とは行かないまでも、週に二、三回は足を運ぶ僕はいつもこのサンドウィッチのセットを食べるのだが、一度も飽きたと思った事はなかった。


ちょうどこの街に越してきて、3年目の僕は今年25歳を迎えたばかりだった。SNSを始めたのも、知らない街に一人で出てきた時に少しノスタルジックな心境になったのがきっかけだった。 意外だったのは、それまでほとんど他人に関心がなく、スマートフォンも殆ど動画再生かニュースのチェックにしか使わなかった僕が毎日欠かさずSNSの投稿とチェックをしているということだ。


SNSはやり始めて本当に魅力的だと思うようになった。

同じ趣味の人、同じ職種の人、同じ考えの人、同じ悩みを持つ人、同じ目標を持つ人。 これらが、簡単に出会えて、簡単に仲良くなれる。 僕は今まで人付き合いがあまり多くはなかったのだけれども、SNSを使い始めてからは積極的に人と関わるようになっていた。(もちろんSNSの世界だけで、現実はそうではない)


兎にも角にも、僕はその新たに知り合ったYUIという女性にも同じ釣り仲間として興味があった。



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そして彼女は死んだ。 @kr112489

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