アサラー女子の高井ちとせは、小学校の頃から仲良しの別所くんと同棲をはじめる。
しかし二人は、付き合っているわけではありません。端から見れば付き合っているように見えますが、実は恋人のフリをしているのです。
なぜこんなややこしいことをしているのか。その原因は二人が小学生の頃死に別れた男の子、神代翔くんにあります。
初恋の相手である神代くんのことを想うあまり、今でも彼の死を引きずっている高井さん。そして神代くんの親友であった別所くんは、神代くんに変わって傷ついた高井さんを支えてくれていたのでした。
恋人のフリは、そんな支えて支えられての関係を周囲に隠すため。小学生の頃の恋を、大人になっても引きずってるってなったら、色々言ってくる人達もいますからね。
けど歪にも見える関係でも、大切な人を失った二人が、励まして支えて生きているのです。いい話じゃないですか。
二人は恋人ではありませんけど、深い愛を感じますよ。
そして高井さんと別所くんが住む場所として選んだのは、神代くんが生前住んでいたアパートの部屋。神代くんのことを思って、その部屋を選んだわけです。
死んでからもう10年以上経っているのにこれだけ想ってもらえるなんて、愛されていますね。嬉しいですね。だから神代くんもそんな二人に会いたくて、幽霊として化けて出てくれました!
大事な事なのでもう一度言います。幽霊として化けて出ました。
この幽霊になった神代くんが、この物語の鍵。高井さんと別所くんの二人で生活するはずでしたけど、彼の出現で三人で共同生活を送ることに。
これに三人とも大喜び。だってもう会えないと思っていた恋人や親友と、一緒に暮らせるのですから。
そして始まる、ちょっと変わった三人の共同生活。
しかし神代くんは亡くなっているわけですし、それ故の悩み、困難が待ち受けています。
だけどそれでも互いを想い合う三人に、深い愛を感じました。
うまくまとめられずに長々としたレビューになってしまいましたけど、本当に素敵な作品。たくさんの人に読んでもらいたいです。
子供のころ、初恋の相手神代くんの死を経験したちとせ。その悲しみは大人になっても癒えることなく、アラサーになった今でも彼のことを想い続けて、現在恋人もなし。
そして、そんなちとせに寄り添う人物が一人。神代くんの親友でもあった別所くん。
彼はちとせの想いをよく理解し、周囲から詮索されるのを避けるためフェイク彼氏をつとめ、同居だってすることになります。
神代くんとは別の意味で、彼もちとせにとっては大切な存在です。
このまま二人で、亡くなった神代くんを想いながらすごしていくのか。しかしそんな二人の前に、昔のままの姿の、神代くんの幽霊が現れました。
男性二人に女性一人。ここに恋愛が絡むとなると三角関係を想像するかもしれませんが、この三人の場合、取り合う関係にはなりません。
それぞれがお互いのことを想い合い、三人で幸せになれる方法を探します。
もちろんそれは、とても難しいこと。なにしろ神代くんも別所くんもちとせのことが好きで、ちとせは一人しかいません。なのに三人で幸せにとなると、普通の方法ではとても無理。だけど例え普通でなくても、常識外れでも、自分たちにとって一番いい選択はなんなのか、どうすればみんなで幸せになれるのか、それぞれが真剣に模索し続けます。
そしてもう一つの話の要は、神代くんが幽霊であること。
幽霊の登場する話は数多くありますが、大抵の場合避けられないのが、成仏するかどうか問題。そして、その時訪れる別れに耐えられるかどうか。
幽霊は成仏した方がいいというのがほとんどのお話における共通認識ですが、大切な人と再び別れることを肯定できるかというと、とても難しい。だけど、何かしらの答えを出さなくては。
この問題は、幽霊ものを書くにあたって避けられないテーマだと思います。
三人の想いと、神代くんの行方。そこにいったいどんな決着がつくのか。
どうか全員幸せになって。読者としても、そう思わずにはいられません。
子どもの頃、病気で死んでしまい、いまは子どものころの姿を保ったままの幽霊である神代くん。生前から両思いで、いまも彼を思い続ける主人公のちとせ。そのふたりの想いを知りながら、ちとせの特別な人間で在り続けようとする別所。
その三人が共同生活をはじめることになってしまって――?
正直最初は「突飛な設定の、すこしドタバタのあるラブコメかしら?」としか、あらすじを読んだときは思わなかったんです。(失敬)ところが、ちがいました。これは極めて真剣な三者三様の「愛」の在り方の話です。しかも精神的な愛のかたちと、肉体的な愛の欲求をもきちんと盛り込んだ、とても真摯な話です。とはいえ、そこにフォーカスを置きすぎることもなく、三人が三人それぞれを思い合ってる姿がとても美しくて、沁みるんです。本来ならもつれにもつれて、下世話な三角関係の話に落とし込んでしまいそうなところを、このものがたりは、さらっととても難しいはずの関係をまとめ上げて読者の目の前に見せてくる。脇を固めるキャラクターもよく、すべての登場人物にとって幸せな結末を迎えられるのかと、情緒をかき乱されるのもまた心地よい。
この共同生活の行く末がどうなるのか。固唾をのんで見守らせていただきます。
お勧めです!