一夜先輩は天の才能あり! 多分……

「あれホントに効くんですか?」

「効くわよ。何てったって、魔女の咒物なんですもの。

 を絶ちきることが出来るわよ」


 (*^ー^)と無い胸を――それを口にすると先輩は殴ってくる――張っているが、その魔女ってところが一番怪しい。


「ところで、さっきから先輩は何をしているんですか?」


 先輩は先程から、アスカなる女子の前で行った咒物の作りをまたやっている。


「保険ですよ」


 誰との縁を絶ちきるつもりなのだろうか?


 ◇◆◇◆◇◆


「どういうことよ!」


 休み明けに、あのアスカさんが部室に怒鳴り込んできた。


「休日デートに行かなかったのに、今日になったら付き合っているじゃない!

 どういうことよ!」

「縁を断ち切ったはずですけど?」

「縁を断ち切ったのに、なんでふたりは付き合っているのよ!」

「断ち切った日までの縁は切りましたが……その後までは、さあ?」

「さあ? じゃないわよ! どうしてくれるのよ!!」

「ああ……うるさい。五月蠅い!」


 と、先輩はハサミと二枚目の魔女の咒物を取り出した。


「なっ、何よ……」


 アスカさんは不審な顔を見せた。

 先輩は……見せつけるように、彼女の目の前で咒物をハサミでパチンと真っ二つにした。


「ん? ん? ん!?」


 突然、怒り心頭だったアスカさんの顔色が変化し始め、気が抜けたようになる。

 そして、部室を見回し始めた。

 改めて見回してみると、うちの科学部の部室は理科準備室だが汚いなぁ……。


「――どちら様?」

「科学部に何かご用ですか?」


 気がつけば、アスカさんが鳩が豆鉄砲を食らった、その表現にぴったりのポカーンと口を開けて目をパチクリしている。


「科学部? あるわけないでしょ、そんな胡散臭い部活なんかに……」


 そういうと、アスカさんはそこそこと部室を出て行った。


「あっ、ハっ、ハハハハ……胡散臭い部活――」

「ああ、良く聞きますよ。ウチの部活が胡散臭いって……」


 先輩は薄笑いを浮かべている。

 前言撤回……みんな薄々気づいているのかもしれない。

 胡散臭い話は、恐らく部長が魔女だからだろう。


「そんなことよりも、なんであの人は急変したんですか?」

「ああ、あたしとの縁を切ったんですよ。

 良く効くでしょ? わたしの魔女の咒物は……」


 と、二枚に切り離された魔女の咒物を、振って見せた。


「どういうことですか? あの……マコトさんとユミさんとの仲を断ち切れていないのに、先輩とアスカさんの縁が切れたって?」

「咒物を断ち切った瞬間までの縁は、ちゃんと切れている。

 一時的な縁は切れても、運命までは変えられるモノじゃないのよ。そのふたりは運命の方で繋がっていたんじゃないかな? 縁を切られてすぐに付き合っていたなんて事は……」

「つまり?」

「――量子力学において……」

「先輩。魔術かおまじないの話をしているのに、急に現実的な話で逸らさないでください」

「科学でも魔法でも、この世界の根本は同じもの。ただアプローチの仕方が違うだけ……。

 どうしたの?」

「――先輩が急に、科学部の部長みたいな言い方をしはじめたので驚きました」

「あたし、科学部の部長だけど?」

「――そうでした」


 先輩の話を総合すれば、運命っていうのは変えられない。

 あのマコトさんとユミさんとの仲は、その運命の方で繋がっているから一時に縁を切ろうが、繋がるということか……。


 ん? でもちょっと待って?

 先輩の魔女の咒物は、アスカさんの状況を見ればたしかに効果があるようだ。


「あたしの顔に何か付いている?」


 だとしたら、なんで一夜先輩は僕にを使わなかったんだ?

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一夜のキリトリセン-科学部の部長は…… 大月クマ @smurakam1978

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