一夜のキリトリセン-科学部の部長は……
大月クマ
一夜先輩は科学部部長!
一夜先輩は科学部の部長をしているが、大きな声では言えないが魔女だ。
なぜ魔女かと言えば、本人がそう言っている。
それだと頭のネジが外れた人と、思われるかもしれないが……僕は入学早々、ホウキに跨がって空を飛んでいる先輩を目撃した。
今どきの魔女はホウキで空を飛ぶときは、姿を隠すポンチョを着ているそうだ。だが、僕は幸運――後で思えば不運――にも風に吹かれてめくれ上がった姿の先輩を目撃した。
そして、たまたま……たまたま――大事なことなので2回言った――手にしたスマホでパシリと、写真を撮ってしまった。
不可抗力ですよ、と僕は何度も先輩に言ったのだが、スカートもめくれあがってパンツまで撮ったのは不可抗力以外、何物でもない。
だけど、先輩は信用してくれなかった。
飛んでいたホウキを振り回し、
「写真を消してッ! バカっ! ヘンタイっ!」
と迫られたときは、さすがに僕も泣く泣く消す羽目になってしまったのだ。
しかも、飛んでいたことを指摘した僕を、本気で殴って気絶までさせられた。
本当だったら、記憶の操作までしたかったらしいが、別の不可抗力(?)があり、消せなかったらしい。
そこで、監視目的で僕を強引に潰れかけた科学部に入部させた。
しかし、なぜ科学部に魔女がいるのか。
先輩の話では「薬品を作っている時にバレない」とのことだ。
昔本で読んだ魔女と言えば、怪しげな鍋を直火にかけて薬を煮込んでいるもの。
それよりも、ビーカーとアルコールランプで薬を作っているほうが、バレないらしい。
科学部で怪しげな色の液体をかき混ぜていても「何かの化学薬品かな?」て済まされているので問題ない、と……。
それに先輩の容姿。丸顔に黒縁丸眼鏡、黒髪を三つ編みのお下げに制服の上から白衣を着ていれば『科学部の部長』といわれれば、魔女とは思わないだろう。これは逆に、三角帽子と黒マントを羽織れば、怪しい魔女になるんだけど……。
ホントかウソかは、このところ観察して見ても怪しまれないので大丈夫かな?
ただ、たまに先輩が魔女……いや、おまじないの天才(?)と聞きつけて、相談にやってくる女子生徒がいる。
今日もそんなのが科学部の部室に現れた。
「――お願いがあるんだけど……」
話を聞いてみると、片思いをしている男子に彼女がいることを知ったそうだ。
「別れさせたい!」
大人しそうな女子生徒だが、結構身勝手な要望だ。
なんでも休みの明日にデートに行くような話をしているそうだ。
それを阻止したい。
相手の気持ちはどうなのだ、と思うが僕には女子の考えが理解できなかった。でも、先輩は理解できたように見えた。が、妙な難題をこの女子生徒に課す。
「その二人の髪の毛を、一本ずつ取ってきて」
おまじないに使うからと……それっぽいが、先輩はホントにそんなことをさせる気なのか?
「――わかった」
そう言って、女子生徒は部室から出て行った。
「追い出したんですか?」
「――本気度チェック」
先輩は、僕の質問にそう答えた。
◇◆◇◆◇◆
「持ってきた。これをどうするの?」
しばらく……いや、30分もしないうちに、先ほどの女子が姿を現したじゃないか。
先輩の言うとおり、二人の髪の毛を用意したらしい。
手にしたハンカチの中に、長い髪の毛と短い髪の毛が入っていた。
大丈夫なのか? この女子、片思いなんて軽く言っているが、ストーカーではないのか?
「こちらにもらいます」
その辺は突っ込まずに、先輩は半紙を用意すると、ピンセットで髪の毛をつまんではさんだ。髪の毛の入った半紙を折りたたむ。
おまじないの準備か、空のビーカーに、私物の革のカバンから水の入ったペットボトル、チケットのような細長い紙、細い筆、それとマッチが机の上に並べられた。
「この水は満月の日に集めた露。月は恋の女神だから力が籠もっています」
「それっぽいですね」
女子生徒は率直に答えたが、そんな霊的なものを炭酸飲料のペットボトルに入れている先輩はどうかと思う。
とにかく、先輩はマッチを擦ると、髪の毛の入った半紙に火をつけた。
燃え上がる半紙を空のビーカーに放り込む。
焼き尽きるのを待って、例の水をビーカーに注いだ。
当然、水は灰と混じり色がつく。
「その二人の名前はなんていうんですか?」
「マコト君! と、ユミ……」
ふたりの名前が挙がったが、男子と女子の呼び方にあからさまに違っていた。
男子は明るく、女子は憎たらしく。
先輩は何も言わずに、筆にビーカーの液体をつけると、細長い紙の端にそれぞれ名前を書いたようだ……ようだというのは、薄すぎて名前なんてよく解らない。
「はい、これ!」
と、紙を渡す。
「何これ?」
ほぼ白紙のチケットだ。疑問を持たれるのは分かる。
「お望みの人の縁を切る
黒いことを平気で先輩は口にする。
しかし、そんなモノをこの女子に渡していいのだろうか?
見たことはないが、ストーカー行為された男子、マコト君とユミちゃんとの仲を断ち切るなんて……。
「ホントに効くの?」
「真ん中で断ち切ってください」
「どうやって?」
「ここをハサミで!」
と、先輩はチケットを奪い取ると、ふたつに折った。
そして、鉛筆で折り目のところに線を引く。
「――分かりやすいように切り取り線を書いておきますから、どっちかの目の前で絶ち切ってください」
「――分かったわ」
「ところで、あなたの名前は?」
「えっ!? ああ、アスカです」
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