第10話 終章

翌日、皇さんに鏡夜くんは呼ばれたらしい。


そこで皇さんと話したことを、二人で裏山で特訓した帰りに教えてくれた。


「さんざん叱られたよ。あの魔物が伯爵クラスとは言え、一番弱い部類だったからよかったものの、もしもっと強い伯爵クラスなら二人とも死んでいたってすごい怒られた。」


「うん。そりゃ、皇さんの言う通りだね…。」


「今後は伯爵クラスと遭遇しても、戦闘は禁止。一目散に逃げることだってさ。」


少し不服そうにしながらも、彼の表情を見ると、きっともう鏡夜くんは無理なことはしないだろうという感じがした。


「そっか…。でも、それが正しい選択だよ。鏡夜くんだって反省したでしょ?」


「うん…。皇さんに、残された人の気持ちを考えろって言われた。それはお前が一番分かっているはずだって…。」


鏡夜くんは、少し肩を落としてそう語った。


「両親が死んで、彼らを生き返らせることが僕の一番の生きる目標だった。でも、僕が死んでしまうことで、悲しむ人たちがいるんだってことも、今回よくわかった。」


そう言うと、鏡夜くんは顔をあげて、私の顔を見つめた。


「ありがとう、まい。僕が死にそうになった時、君が本気で泣いてくれていたから、僕は大事な人たちの存在に気づいたよ。そして…、まい。君も僕にとって大切な人だ。決して僕は君を失いたくない。」


真っすぐに私の目を見て、鏡夜くんはそう言った。


なんだか私は体がぽかぽかとあったかい気持ちになった。きっと私の頬は今、赤く染まっているだろう。秋の夕焼けが私の顔を照らしてくれていてよかったと心底思う。


「う…うん。そっか…。ありがとう。」


私は照れてしまって、曖昧な言葉しか出てこなかった。そんな私とは裏腹に、冷静な表情で鏡夜くんは言った。




「僕と付き合ってくれないかい?」


黄金色の空を、トンボたちが気持ちよさそうに泳いでいる。いきなりの鏡夜くんの告白に、私はトンボたちを驚かせてしまうほど、大きな驚きの声を出した。


「えぇ!?なに言ってるのっ!?」


いきなりの鏡夜くんの告白に、私は動揺を隠しきれなかった。


「僕にとって、君は本当に大事な存在だ。だから付き合ってほしいと思った。」


鏡夜くんは、普段と変わらない表情でそう言った。しかし、彼の目はとても真剣で、じっと私の目を見つめている。


「なんといいますかっ…、私その、恋愛とか…、したことなくてっ…。」


しどろもどろに言う私に、鏡夜くんは困ったように笑った。


「うん。僕も同じだよ。こんな気持ちになったのは初めてだ…。だけど…、君を大事だと思う気持ちは間違いなく確かだよ。」


優し気に笑う鏡夜くんの言葉には、嘘や偽りなんてものはなく、ただ私のことを大切に感じてくれていることが伝わってきた。彼の笑顔とその言葉に、私の胸は鼓動が速くなり、すごくドキドキしている。これが恋するってことなのだろうか…。


「その…、恋とか付き合うとか、まだ私にはよくわからないけど…。付き合うっていうことが…、大事だと思う人と、大切な時間を過ごすということなのだとしたら…。」


そこまで言って、私は恥ずかしくて今まで見ることができなかった鏡夜くんの目を見た。



「私は……、鏡夜くんと…お付き合いしたいと思います。」



私が彼にそう告げると、鏡夜くんは小さくガッツポーズをした。そして私の手をそっと握ってきた。


「よかった…。まいのことは…僕が命に代えても守るよ。」


眩しい夕焼けに照らされながら、鏡夜くんはそう言った。


「駄目だよ。私が鏡夜くんのことを守るんだから。」


私が不服そうにそういうと、鏡夜くんはにこっと笑って、私の手を強く握った。




このときの私と鏡夜くんは、まだまだ本当にただの子どもだった。ちょっと大人になったつもりで、そのくせ先のことを全然何もよく考えられてはいない。


もし…、これから鏡夜くんが魔物を倒して百点を取った時……


彼は自分のこれまでの記憶を捨てて、私の記憶から自身の存在を忘れられてでも、神様に願って彼の両親を生き返らせるのだろうか。それとも、私とともに未来を生きてくれるのか…。



このときの私たちは、そういった先の未来を考えられるほど、まだ大人ではなかった。

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ハロウィンナイト 冨田秀一 @daikitimuku

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