余白


 ……愛される為には、彼方あなたは愛さねばならない。その言葉がどれほど僕を苦しめるか、君は知る由もないのだろう。君が悪いんじゃない、悪いのは僕だ。どれだけ尽くしても一向に人を愛することのできない僕の所為せいだ。もう何年も前から、きっと死のうと思っていた。そのまま何も出来ず君に出逢い、君に出逢って更に僕は自分の決意を蔑ろにしてしまった。けれども、もういい加減に決めなければならないと思う。……誰かを好きになろうとするたび、僕の心は鈍く軋み、血が滞るように寒くて、何も考えられなくなる。君が謙虚だと云うその姿勢が、君を見下し遠ざけるためにあるということになど、君は気付いていなかっただろうね。

 こんな僕を君は好いていたと云うだろうか。君は云うかもしれない。けれど、誰かを愛することと、誰かに愛されることが対等に向き合っているのなら、君はやはり僕を愛してなどいなかった。なぜなら、僕は君を愛していなかったのだから。

 君を好きになれたら良かった、君と話が出来たら良かった。僕は、誰かを愛せる人間に為りたかった。けれど、そう為れないと知ったとき、僕はどうしても、あの、絶望というものを胸に抱かないではいられなかった。だから抱えて行く前に少しだけ、此処に落としておきたかった。そうすればこんな躰でも、少しくらいは、軽やかに飛ぶことが出来るのだろうと思ったから。

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夜間飛翔 翳目 @kasumime

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