第18話 【輪廻の巨人】Ⅲ

「【神々を斬滅せし者ゲノズィーバ】……? そんなパーティ聞いたことも無いッ! 今すぐ立ち去れ‼」

 べクスは怒号を飛ばす。どこの馬の骨とも知らない人間たちが突然、自分の悲願を邪魔しに来たのだ。仕方ないことだ。

 そんな憤慨を堂々と無視して、ロアは笑い飛ばす。

「聞いたこと無いって、当たり前じゃん。今作ったんだからなぁ!」

「ロア、黙ってくれないか。あんな異形を目の前にふざけるな」

 アゼルがロアの言葉を一蹴し、罵倒を浴びせる。平常運転だ……そんな二人を咎めるようにハストが忠告する。

「注意しろ、二人とも。アイツら既に【輪廻の巨人ヘカトンケイル】を復活させているぞ。奴らは幾らでも対処できる。問題はあっちだ、皆!」

 ハストはロアの代わりに指揮を執る。全員戦闘態勢で構える。

「分かってる。よし、やるか………魔剣ヴァル・ラグナ《普遍状態ニュートラル》ッ‼」

 魔剣を構えるロア。そして阿吽の呼吸のように支援魔法スキルを付与するリア。神獣を召喚し、細剣レイピアを構える。遠距離から【輪廻の巨人】の頭蓋を狙うように銃を構える。

 ハストはリアの横に並んでスキル発動の準備をし、リツは《舞巫女》としてリアの支援にプラスして更なる支援魔法バフをかける。

「ハスト、俺の魔剣に人狼のスキル”ヴラドレジスト”を付与できるか?」

「任せろ――”ヴラドレジスト”」

 瞬間、ロアの魔剣ヴァル・ラグナに血色のオーラが纏われ、まるで噴き上がる爆炎のように刃が猛る。

 ”魔族憑依ディアモス・スペクト”のスキル――人狼の「血気」。暗闇や夜に血が騒ぎ、血液によって筋肉量や魔力を上昇させるスキルだ。

 それを魔剣に付与することで、基準となる攻撃力・防御力が増幅しているのだ。

 ロアは「ありがとう」と告げて、高く跳躍する。そして無数ある腕に撃ち数本を同時に切り捨てる。

「うらあああッ‼」

『グ……フゥ』

 腕を同時に切られたのにも関わらず、【輪廻の巨人】は平然としていた。どうやら再生はしないらしい……中には再生能力を持つ魔獣も多くいるから、再生しないのは実に有難い。

 だが、途方もない腕の数だ……このまま腕を切っていてはキリが無い。

 直後【輪廻の巨人】は咆哮を上げて数百本の腕で群がるロアたちの場所を殴り飛ばす。全員辛うじて回避したものの…殴られた場所が不自然なほどに抉れ、土塊はおろか灰すら残っていないのだ。

 あんな攻撃受ければ、跡形も無く消される。そう確信した。

「”ヴォル・レイ”ッ‼」

 リアが魔法スキルを発動する。『アストラル・テン』の先端から電流が奔り、刹那――青空のように蒼い細い光線が放出され、【輪廻の巨人】の心臓を貫通する。

 そして身体中に電撃が迸って、跪く。

《賢者》スキル”ヴォル・レイ”。電撃を収束させ、高密度高熱の光線であらゆる物質を貫通させ、相手を麻痺させる兇悪なスキルだ。

 そんなスキルを急所に喰らったのだ、ただでは済まないだろう――

「嘘でしょ……?」

 リツが絶句する。麻痺してもなお、【輪廻の巨人】は立ち上がったのだ。心臓を貫かれて死なない魔獣…意味不明だ。

 ミリアは【交響曲の天魔シンフォニア・ハーピィ】の翼で【輪廻の巨人】の首元へと侵入し、細剣を振るう。

「”エターナルワルツ”っ!」

 細剣レイピアの斬撃によって、【輪廻の巨人】の首が一つ刎ね飛ぶ。刹那、再び跪き悶絶する。噴水のように流れ出る気色悪い黒寄りの色彩を持つ血液が地面へと落ちていき、吐き気を催す。

「何だッ!? どういうことだ? リア、調べてみてほしい」

「うん………”ウェイブル”」

 千里眼スキル…”ウェイブル”。普通の魔法師が使えばただ遠い場所を視れるだけのスキルだが、リアのような《賢者》で、尚且つ《全能魔導士オールティアーズ》な人間が”ウェイブル”を使えば、体内すらも見渡すことが出来るのだ。

「……お兄、分かった。アイツの頭に心臓があって、多分頭を潰せば相当なダメージが入ると思う…」

 とても助かる情報を見つけてくれたリアには、後でご褒美を上げなければ……。そんなことを思いながら、ロアは皆に叫ぶ。

「おい、聞けッ! アイツは頭が弱点らしい。だから頭を重点的に潰せッ‼」

 ロアが指示を下し、【輪廻の巨人】の頭へと近づこうと跳躍したその時――。


 ドゴォッ――‼


 腹に途轍もない激痛が迸り、墜ちる。

「何だ………ッ!?」

 ロアは苦しみに耐えながらも瞼を上げると、そこには鉄拳を装備した老人――べクスが仁王立ちをしていた。

「貴様ら…もしや『封神団』の手下か? ならば……殺さなければいけない! 我らが財宝を壊させるわけには行かないッ!」

 べクスの脳内は憤怒に満ち溢れていた。そして鉄拳をロアの顔面へと振り翳す。ロアは咄嗟に左に転がり、回避する。

 そして魔剣ヴァル・ラグナを構え、突撃する。

 左肘を斬ろうと刃をロアから見て右側へと回し、刃を振りかぶったその瞬間…べクスは右手で剣を殴打し、同時にロアの身体が吹き飛ばされる。岩にぶつかり、衝撃が身体を痙攣させる。

「クソッ……悪いが、この老い耄れは俺が仕留める。だから【輪廻の巨人】に集中しろ!」

「わ、分かりましたっ! 私たちに任せてくださいっ!」

「当たり前だロア。俺たちが殺しとく、さっさと行けッ!」

 ハストとミリアが応答し、漆黒の竜巻が吹き荒れ、黄金の斬撃がまるで舞い散る花びらの如く腕を切り裂き、触手も同時に切り裂く。

 すると、二人の眼前に鉄製の槍が飛来し、咄嗟に回避する。

「何だ!?」

 たった今飛んできた槍は背後の岩へと刺さり、直後——爆発する。

「今のは僕のスキルによるものですよ」

 歩いてきたのは、槍を両手に持つ青年――べクスの側近リアンであった。今のは武器に”エクスプロメア”と呼ばれる爆破を起こす火焔術師パイロマンサーのスキルを付与させているのだ。

「え、えぇ……どうしましょう? 誰が戦いますか?」

 ミリアが慌てながらリア、アゼル、ハスト、リツに問いかける。すると、ハストとリツが前に出て、並び立つ。

「俺たちで何とかしよう。多分問題ない筈だ…リアは世界最強と言っても過言ではない《賢者》だ。しかも頭を狙うんだろう? だったら狙撃手の方が有利なはず」

 ハストが冷静に分析をして、ミリアとリツに話す。二人ともその理由に納得して、背後にいる二人に言い残す。

「リアさん、アゼルさんっ! 任せましたよ!」

「二人とも死なないでよ~」

 リアがVサインを示し、首を縦に振る。

「任せておいて、ね?」

「ふん、さっさと片付けるぞ。リア、僕にも”アテック”と”テルミラ”を。アイツの脳天を――灰燼にしてやる」

 アゼルは狙撃銃クロイツェルを構え、引き金を引く。放たれる銃弾は、かつてロアとの一騎打ちで放った魔弾…煉獄の魔弾ムスペリエム・アッモだ。

 バンッ! と火薬が爆裂音を轟かせ、深紅の炎が舞い上がる。刹那、【輪廻の巨人】の頭蓋を貫通し、一瞬にして燃え尽きてしまう。

 直後魔弾が破裂し、超高熱の炎が拡散する。その流れ弾で六十ほどの頭が吹き飛ぶ。

「ほう、アゼルもやるじゃないか。相当の手練れと見える。俺たちもそこの奴をぶちのめすぞ」

「よ~し! ハスト、ボクたちも頑張らなきゃねっ!」

 リアンとの戦闘において、ハストとリツは後衛である。そしてミリアが前衛でリアンと対峙するという計算だ。

 リツの支援スキルで二人を強化し、ハストの”魔族憑依ディアモス・スペクト”の一つである亡霊のスキル”マナスティラ”という魔力を透過することが出来るスキルをミリアに付与する。

 ミリアの周辺に虹色の障壁が出現し、更にリツの強化によって実質的に魔法スキルを無効化できるようになった。

「行きますよッ!」

「かかってきてください。僕も本気を出しますか……”マギアエンチャント”、”マナフロイス”ッッ‼」

 刹那、リアンは兵隊の落とした片手剣を手に取り、詠唱する。白銀の粒子が刃に纏わりつき、途端にそれを思い切り投擲する。”マナフロイス”とは、氷結術師の魔法スキルで、魔力の流れを一時的に凍結させる厄介なスキルだ。

 …だが、リアたちにそれは効かない。

「……”ディス・シンボル”」

 直後、投擲された鋭利な片手剣はリアの掌の前で停滞し、白銀の粒子は気体へと変化し、霧散する。

 魔法スキルを無効化するスキル”ディス・シンボル”――リアンは愕然としていた。

「そんな……ッ!? ”ディス・シンボル”……チッ、なら”マギアエンチャント”、”トランソーマ”ッ!」

 リアンは呆気を取られながらも、再び片手剣に魔法スキルを付与していく。瞬間、彼の持っていた片手剣がクロスボウへと変化し、その照準をリアの急所に定める。

「死ねッ!」

 リアンは憎悪に塗れた言葉を吐き捨て、引き金を引く。鋭利な鋼鉄の矢は隼の如くリアの急所へと一直線に飛んでいく。

 魔法スキルを発動する時間もないほどの速さで放たれた矢は急所に当たる――事は無かった。

 キィンッ! と鋼鉄の矢を弾き返す音が巌窟に響き渡り、放たれた矢は落下していく。

「いくら速度の速い矢でも、私の剣があれば普通に落とせますっ!」

 ミリアが咄嗟に細剣レイピアでその矢を弾いてくれたのだ。

 息を詰まらせていたリアは安堵の息を吐き、微笑みながら、

「ありがと、ミリア」

 感謝の言葉を告げる。そしてリアは再び【輪廻の巨人】への攻撃を再開する。

「無駄な会話はいい。とっとと片付けるぞ」

「もう、アゼルはせっかちなんだから……”ダルク・アレイド”」

 リアがそう詠唱すると、【輪廻の巨人】の複数の頭に闇色の球体が出現する。

 そして彼女が杖を振るった瞬間――頭が黒い球体に呑まれ、消滅する。

 今のは”ダルク・アレイド”と呼ばれる闇属性の上級魔法スキルの一つで、虚無空間に繋がる球体を生成し、あらゆる物質を消滅させるという強力なものだ。

 しかし、いくら《賢者》であるリアでも、生成できる球体の数は二十個程度だ。そして現在の【輪廻の巨人】の頭の数は数えきれないほどある。このままではただ魔力を浪費するだけだ。

「流石にこのままじゃ……ジリ貧。アゼル、私今から魔力を集中させて、あのデカいのに”クリーク・レイ”撃つから……時間稼ぎよろしく」

「分かった、善処する」

 彼はそう応答して狙撃銃クロイツェルを構えて紅蓮の魔弾を撃ちまくる。

 そしてリアは深呼吸をして、空気中の魔力を体内に取り込んでいく――


「さーて、そこの爺さん。ちょっとその怒りで打ち震えてる拳を治めて、俺たちの話を聞いてくれないか?」

「黙れッッ‼ 貴様らは我らが遺産を掠奪しに来た盗人だろうがッ! そんな連中に貸す耳など、持ち合わせておらん」

 何とも頑固なべクスに、ロアは溜息を零す。

「そう言うなよ、ジジイ。俺たちは《召喚術師》の遺産…つまり【輪廻の巨人アレ】とタルタロスに関することについて知りたいんだ」

「あの反吐が出るような奈落の支配神が、どうした? 我らはただこの【輪廻の巨人】で世界を破壊し、書き換えることを望むだけ……」

「あのさ、他人様の迷惑な訳、それ。そんなことより、さっさとタルタロスについて話せ。そうすりゃ、軽く斬り付ける程度で済ませてやるよ」

ロアは不敵に笑って、魔剣ヴァル・ラグナを軽く振る。

 だがべクスは拳で彼の攻撃を弾き返す。

「貴様のような人間が、貴様のような才ある人間が、儂に説法垂れるかッ!」

「……才能があるだって? 笑わせてくれるな、お前。俺に才能があれば、ガキの頃どれだけ苦労せずにいられたと思ってるんだッ!?」

 ロアは彼の怒号に過敏に反応する。

 彼にとって、「才能」という言葉は呪詛のようなモノだったから、そう簡単に「才ある人間」などと言われると、癪に障る。この「スキルが一つしか使えない」体質で、ロアは数々の大人から見放され、数々の罵声を浴びせられてきた。

 べクスは恐らく――

「お前――《拳闘士》だろ? しかも相当腕が立つ……それなのに、上級の職業に行けずに挫折したとかか?」

「……そこまで分かっていて、何が言いたいッ?!」

「あ? 簡単だろ。お前のただの挫折と我が儘で、世界を滅ぼそうとするなって話だ。確かにこの世界にはお前みたいな才能が無いだろう人間が数多くいる。事実俺がそうだった。だが、それでも必死に打開策を見つけ出して、這い上がって来た。世の中にはそういう努力家もいるってわけ」

 ロアは魔剣ヴァル・ラグナの切っ先をべクスの顔面に定めて、にじり寄ってくる。

「そんな日々頑張っている人間がいる中で、お前は隅でただひたすらに虚勢を張って、努力している人間を日々罵倒しているだけ……正直惨めだぜ、アンタ」

「ふ、ふざけるなッ! 貴様――これ以上無駄口を叩くなッ!」

 べクスはそう怒鳴りながら、鉄拳をロアの心臓に目掛けて放つ。

拳闘士モンク》のスキル――”ヘルムブリッツ”。黄金の魔力を纏ったその一撃は、分厚い甲冑や鎧を貫通させて衝撃波を内側へと浸透させる、鎧通しの拳だ。

「……はぁ、少し思い知らせる必要があるな」

 ロアがそう溜息を吐くと、べクスの”ヘルムブリッツ”を屈んで回避し、魔剣ヴァル・ラグナで彼の右腕を――


 ズシャァ――ッ!


 斬り飛ばす。真紅の鮮血が、洞窟内に舞い散る。

「うわあああああああああ――――ッ!?!?」

 切断された右腕を押さえながら、べクスは喉が裂けそうな程に絶叫する。ロアは魔剣についた血飛沫を払って、膝をついて激痛に苦しむ老人を前に、口を開く。

「お前、仮にも俺より数十歳長生きしてんだろ? それで俺に負けるってことは、俺とお前じゃ努力の差が違うってことだろ」

 べクスはあくまで根性というか、粘り強さが無いだけの老い耄れだ。才能があるか否かと問われれば、彼はある方だと思う。流石に経験を積んでいるからか、まっすぐでそして破壊力もある――彼の拳は、立派な武器だ。ロアはそう思う。

 しかしロアは違う。彼はハイランダーという途轍もなく思い枷に縛られている。しかし、彼はそれでも強くなる為に、見返す為に、そして――リアと対等である為に。

 人間の才能とは、結局才能で決まる。かつて無能と罵られていたロアも、今となってはSSS級の魔物しら討伐し、更に神も二柱実質的に殺した。

 べクスは結局、努力を苦と思って立ち止まってしまったのだと、理解する。

 ロアは血を滝のように流しているべクスに近寄って、マントを破る。そしてその布でべクスの腕を思い切り縛り付け、止血する。

「後で治療するから、少しだけ待ってろ」

「待て、貴様ら。まさかあの【輪廻の巨人ヘカトンケイル】を斃すつもりか!? あの怪物はたとえ心臓を破壊されても一定時間が経過すると完全に復活して――」

 べクスの言葉を耳にして、ロアは目を見開く。

「マジか、ジジイ。……クソッ、早く行かねーと――ッ!」

 ロアは舌打ちをして、リアとアゼルのもとへと向かった。


  †


「クソッ! リア、不味いぞ。この巨人、頭が再生しているぞ」

「……流石は世界を滅ぼす……怪物。そう簡単には、殺させて……くれない」

 リアたちは、目の当たりにした。【輪廻の巨人】の潰したはずの頭部が蠢くように再生し、元通りになる光景を。彼らは半ば絶望の表情を浮かべる。また、千万もの心臓を、頭を潰さなくてはならない。

「畜生……このままじゃ僕たちの魔力の方が先に底をつくな」

「……私は、大丈夫だけど。アゼルは確かに”煉獄の魔弾ムスペリエム・アッモ”を連発は……出来ない」

「ハッ、魔力が無尽蔵な人間は違うな」

 アゼルが無意識な嫌味を吐くリアを鼻で笑いながら、再生した頭を再び吹き飛ばす。まだ再生はしていないが、すぐに元通りになってしまうだろう。だが、数々の魔物を討伐してきたリア、そして――

「待たせたな、お前らッ! うわ、マジで再生してやがるのか……」

「お兄、遅い。……それよりも、あのお爺さんは……?」

 ロアは腕を切断され跪くべクスを指さす。

「あそこだ。一応実質的な降伏勧告はしたから、後で”ヒリア”をかけてやってくれ」

「……ん、後でやる。今は、あのデカいのを……なんとかする」

 リアは『アストラル・テン』に集中しながら言う。彼女の魔力は一般の魔力量を遥かに凌駕しているが、《賢者》の魔法スキルはその威力からただの魔力では本当の威力を発揮できない。

 だから彼女はこうして、精神を統一させ、魔力を研ぎ澄ませることで更なる殲滅力を発揮させる。しかもオールティアーズであるリアの魔法スキルは、研ぎ澄ませることで世界を破壊する威力となる。

「お兄、準備できた。……そっちも、アレを」

「分かってるさ。そっちも、ヘマすんなよ」

 ロアは魔剣を構え、その双眸で彼の二千の頭と二万の腕を持つ怪物を睥睨する。

 すると、向こう側から声が聞こえる。

「ロアさんっ! こちらも終わりましたッ!」

 金髪碧眼の美少女エルフ――ミリアの声だ。ロアが振り返ると、そこには多少傷ついた三人の姿と、大の字で冷たい床に伏すリアンの姿があった。

「存外大した男では無かった。所詮は付与術師エンチャンターだな」

「でもハスト右手怪我してるじゃ~ん。虚勢は張っちゃダメだよ~……って痛っ!?」

 ハストが何処か馬鹿にした笑顔を向けるリツにチョップを喰らわせる。

「黙れお喋り。……それよりも、あの再生する怪物をどうするんだ?」

 ハストは冷静沈着に状況を把握して、ロアに問いかける。ロアは彼らの姿を見て、不敵に笑む。

「お、丁度良かった。お前ら、俺に魔力を供給しろ! 今から俺とリアでこのクソデカ畜生を殲滅する」

「え~!? アタシたちは魔力タンクってことなの? ロア君!」

「その通りだ。だけど、お前らの魔力がありゃ、コイツを殺せるッ! 頼む!」

 ロアがそう叫ぶと、ミリアが一歩前に出てロアの肩に華奢な手を載せる。そして、ミリアの黄金の魔力が流れ込んでくるのが分かる。

「ロアさん、私の中に残ってる魔力を全部、貴方にあげますっ!」

「ついでに俺のものになってほしいが……ありがとよ、ミリア」

「ふぇっ!? そ、そんな……」

 ミリアが頬を紅潮させ、俯く。

「無駄なお喋りはいい。仕方が無いから、俺の魔力もくれてやろう」

 ハストが辟易しながら、同様にロアの肩に手を置く。何処まで深い海のような藍色の魔力が流れ込む。そして更に、リツが背中に手を翳す。

「後でなんか奢ってね、ロア君!」

「ああ、気が向いたらなっ!」

 そんな適当な口約束を交わした直後、アゼルも手を置く。

「フン、折角僕の貴重な魔力を供給するんだ、一撃で仕留めろよ」

 鼻を鳴らしながら、アゼルは魔力を流し込む。

 ロアの体内には四人のそれぞれの魔力が循環している。漲ってくる――四人の魔力が。最上級の召喚獣を召喚できる召喚剣士と、強力な魔弾を放つ魔弾射手、そしてロアたちと同じように魔物を狩って来た黒魔導士と舞巫女の魔力。

 これだけ質のいい力があれば――塵すら残さないだろう。

「おい、リア。準備は出来てるか?」

「……ん、問題ない。いつでも、いける」

 リアが瞼を上げて、『アストラル・テン』を【輪廻の巨人】に向ける。

「よし――やるぞ」

 魔剣ヴァル・ラグナが、深紅と漆黒の焔を纏い、そして刃に高熱量の昏く、猛り狂う斬撃が、幾千幾万と宿る。

 第十幽界の王笏アストラル・テンが、純白の凄まじい魔力の奔流を纏い、先端の結晶クリスタルに収束し、何処までも白く、濃い雫が形成される。


「――”遍くは一刀にて潰えるリフィロディア・ワン”ッッッ‼‼」

「――”クリーク・レイ”」


 二人が同時にそう唱える。

 ロアの魔剣から放たれる深紅の数万もの斬撃の嵐と、リアの長杖から放たれる純白の殲滅の閃光が――刹那を、須臾しゅゆを、ただひたすらに駆ける。それは常人が放つことは絶対に出来ない、神のような所業。

 それはまさしく、神が愚かな人類に下す天罰の光――または神が愚かな神々に下す破滅の一撃――

 その二つの〝滅亡〟が、〝懲罰〟が――【輪廻の巨人ヘカトンケイル】を。

 彼の怪物を――跡形も無く、塵芥も残さず、消し飛ばす。断末魔すら上げる暇も与えず、攻撃する余地などもってのほかだった。

 やがて光が止み――巌窟の大半を埋め尽くしていた怪物の巨躯が失せて、静寂が訪れたのだった。

 

 ロアたちは――【神々を斬滅せし者ゲノズィーバ】は、ダルクヴェイン公国に居た召喚術師の遺産…【輪廻の巨人ヘカトンケイル】を斃したのだ。

 

 

 

 

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ハイランダー・オールティアーズ ~《極致魔剣士》と《全能魔導士》の放浪譚~ 暁 葵 @Aurolla9244

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