file 2 : おばちゃんの教訓

僕のおばあちゃんの家には、大きなタンスが二つあった。

一つは『おばあちゃんの嫁入りタンス』、もう一つはおじいちゃんが骨董屋で見つけてきたのだと、6歳の時に教えてもらった。

どちらとも丁寧に角取りがされており、とても綺麗な状態にされていた。


そして僕が今住んでいるこの家に、その家具たちはやって来た。


おばちゃんと良くお茶を飲んだちゃぶ台。

饅頭ばかり仕舞われていた冷蔵庫。

そして、大きなタンス。


僕の結婚が決まった際に、母が送ってくれたのだ。


モダン調な我が家にとって、少し古臭すぎるような気もするが、ギャップがあって面白いのかもしれない。




僕の嫁の話でもしようか。


彼女は僕の一個上の先輩だ。

通っていた大学の合コンで知り合い、意気投合したのが交際のきっかけ。


彼女は結構な浪費家で、服を買っては捨てを繰り返している。


おばあちゃんから、


『物は大切に。要らない物は閉まっておきな。歳を取っても寂しくないからね。』


と、言われ続けてきた僕には少し考えられない行動だ。


それもそのはず、彼女の両親は医者をやっていて、幼い頃からなんでも買い与えられたのだと言う。






新婚生活が始まって数ヶ月。

彼女の浪費っぷりは変わらない。


「なぁ、そろそろ、辞めたらどう?」


僕は初めて口にした。

彼女は不機嫌そうにこっちを見て言った。


「要らない物は捨てる。そう習わなかった?」


貧乏暮しだった僕に多少の皮肉を込めたその言葉は、僕のなにかに火を点けた。


「捨てる仕事、僕にやらせてよ。」


僕はそう言って、ガラ空きのタンスの中へ衣服を詰め込むようになった。





ー彼女が行方不明になった……。


昨日僕が買い物へ行っている間に何処かへ行ってしまったのだ。

すぐさま警察に届けを出したが、何日経っても見つからない。




心に穴が空いた。





家に独りぼっちになってからのある日。

酒と娯楽にお金を使い続けているある日。

ふと、頭に疑問がよぎる。


「(そういやあのタンス、一回も中身いっぱいにならないよな……)」


試しに彼女と僕の古着を目一杯詰め込んで見る。

扉が閉まらなくなるまで詰め込んだ。



ーだが、徐々に扉が閉められるようになるのを僕は見た。



中を覗く。


なんの変哲も無いタンスだが、絶対に衣服が減っている。






僕は彼女を思い出すと同時におばあちゃんのことを思い出していた。


おばあちゃんはドのつく倹約家だった。


物は精霊でも生まれるんではないかと思うほどに大切にしていた。


浪費家を極度に嫌っていたことも。


多分はその血を受け継いだんだろう。


は絶対お金や物を大切にしよう。


そう心に決めた。






とある民家のタンスの奥には、今もなお眠り続けているのだと言う。


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ー タンスの怖いお話。 しばたろー @shiba_taro

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