第56回Twitter300字ss「旅」

草群 鶏

ふたり旅

「このへん、そもそも店がないのよね」

「えっ」

「大丈夫大丈夫」

 なんとかする、と旅慣れた彼女は笑う。

 昼下がりの小さな港。この日照りでは島民の姿もない。

 空腹を抱えてとぼとぼ歩いていると、今度は向こうでばしゃんと大きな水音がした。

「気持ちいいー!」

 桟橋の先、真っ黒に灼けた子どもたちに紛れて浮かぶ姿が眩しい。何を呑気な、と半ば脱力しつつ、リュックを下ろした僕は猛然とダッシュした。

 島の子に連れられて海水でべたべたになった身体を流し、そのままお昼に呼ばれた。揃ってそうめんをすすっていると、不意に「けっこんすんの?」と幼い声が問う。

「それもいいねえ」

「えっ」

 盛大にむせた視界の隅で、彼女が満足げに微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第56回Twitter300字ss「旅」 草群 鶏 @emily0420

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説