西宮夫婦の話

1話ここが始まり

 [十数年前]


『ぼくねぇ大きくなったらちゃんになりたいな』

 つぶらな瞳をキラキラと耀かせている少年は言った。

『........?りょーちゃんがつばきになるの?』

”つばきちゃん”と呼ばれている少女はこてんっと首を傾げる。

(えっとえーっと........そーなるとりょーちゃんがつばきで、つばきは........あれ?)

『うん!!だってそうしたらつばきちゃんとずーーっと一緒だもん』

 小さな両腕を目一杯にひろげ嬉々として話しているその姿はなんともかわいらしいが内容は少々愛が重たい。

『う~ん.....つばきはそれやだなぁ。だってつばきはつばきだし』

『................................そっかぁ』

 落ち込む少年の手を少女が優しく包んだ。

『でも、つばきもりょーちゃんと一緒にいたい!だからね私たちずっと一緒だよ!』

 少女がにっこりと無邪気に笑えば少年はコクりと頬を赤らめて頷く。

 少年の名前は西宮亮太にしみやりょうた。少女の名前は花袋椿かたいつばき



 さて時は流れてこの二人も今年で27歳。立派(?)な社会人になった。当人たちがどうなっているのかというと..........






「はぁ、まじ無理。もう嫌だ。俺まだ27だよ!?見合いとかいらなくない?」

 仕事帰りに久々に実家に寄ってみれば母から聞かされたのはまたしても見合いの話で、嫌になって即行で帰ってきた。

「おつ~wwまぁ、あと三年も経てば三十路だからね~。早く結婚しないt....」

 同居人の椿に軽く流された。

「その言葉そっくりそのまま返すわ」

「くっ.....」

 高校は別々で大学で再開し再び意気投合してからはや数年。別に付き合っている訳でもないが家賃が半分(二人で払ってるので)になるという利点だけで同居している。幼馴染みだからこそお互いのことを知り合っているため彼氏彼女なんかと同居するよりよっぽどかってがいいという所もある。

と、椿は思っている。まぁ、俺も同じで.............

    な わ け あるかぁぁぁ!!!俺がどんだけ理性保つのに苦労していると思ってる!

そりゃあ今でも覚えてますよ。子供のころ『ずっと一緒』という約束を出来たときどんなに嬉しかったことか。だが所詮子供の約束。この花袋椿は見事に約束を忘れやがっていた。

 そんなことだろうと覚った俺は中学生の頃に思いを告げようとした。そのタイミングで!当時の彼氏のノロケを聞かされたときの破壊力と言ったら(泣)お、思い出したらホントに涙出てきそう。


 でもコイツから見れば俺は友達で幼馴染み止まり。もちろん『彼氏、夫』っという地位になりたいのはあるが最近『無理ならもう椿が幸せになればいいか』と思うようになってきた。


「椿はさ~、何で結婚しないの?モテるじゃん」

 現在椿は家具とかインテリアのデザインの仕事をしていて❲期待の新人❳らしい。俺にはさっぱりわからんが。俺?俺はしがない公務員さ。

大学で再開した時に色々口車にのせて何とかシェアまでこぎ着けた。椿が家に居ることは仕事の活力にもなっている。なんとしても定時で帰りたい。

「え、ああ。私なんか男見る目が無いらしくて、『あっ、この人いいな』って思っても裏悪い意味で凄かったりする人多くて.....はぁ」

「なるほど、いやでも!モテるならその分チャンスはあるだろ!俺なんかモテもしねえよ」

 女性から声をかけられない訳でもないが、律儀にもあの約束を振り切れなくてそういうことは椿が結婚してからにしようと決めている。まぁ、コイツのチャンスとやらは俺に向くことはないんだろうな。

「簡単に言うけどさ~」

 はぁっと大きなため息が被る。

 冷蔵庫から取り出した某金麦のビール缶を一本渡してくれた椿。俺たちは同時に缶をあおぎ、ぷはーっと息をする間も揃いクスッと笑みが洩れる。喉に残るシュワシュワとした感覚が気分を少しだけ晴らしていく。





[3時間後]

 二人とも明日が休みということもあってかいつも以上に呑んでしまってつぶれている。

机にふせている椿からはすぅすぅと寝息が聞こえる。寝落ちしたみたいだ。

アルコールのせいでくらくらとする頭を抑えて缶の片付けを始める。

無防備な彼女の寝顔は本当に可愛くて、これがいつか俺以外の誰かのものになってしまうのだと考えると胸焼けのような不快感が拡がる。これはきっと酒だけのせいじゃない。

 ある程度片付け終わって椿を寝室に運ぶ。流石に服を脱がせてシャワーを浴びせるわけにもいかない。

 今襲っても朝になれば多分覚えてないんだろうな。

 寝かした椿の上に覆い被さるようにまだく。

俺のものにならないならいっそ壊してしまえ。とそんな黒い考えがよぎる。でもそんなことをすれば今の関係も崩れるし信用もきっと無くなる。それだけは絶対に嫌だ。

「なぁ、お前さ。自分で男見る目ないとか思ってんだったらお..............何でもない」

俺にしとけよ。

言いかけたが口が先に閉じた。なんだか気まずくなってベッドから降りようとした。はずだった。

「続きなに言おうとしたの?」

「............っんだよ。起きてたのか」

少し恥ずかしげに顔をそむける椿がそこにはいた。今の聞かれてたかとも思ったがはぐらかすことにした。この押し倒してる状態で言い逃れはキツいかな。ヘタレ?何とでも言うがいい。

「別にさっきのに深い意味は「なってもいい」......は?」

「..........西宮椿になってもいい」

あーー、もうなにこの可愛い生物。もう無理。最高。さすが俺の愛してる椿!

「それ、酔った勢いで言ってる?俺こんだけ煽られて据え膳とか我慢出来ないよ?」

「大丈夫。本気。たんと御上がりなさいな」

椿の口から出た殺し文句に俺の理性はプツリ。音をたてて切れた。




2ヶ月後式を挙げた俺らは、はれて夫婦となった。

 式場の中庭にあった時期外れに咲くツバキがポトリと一輪落ちたのが何故か目にとまった。





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『寄』怪な世界は僕らの想いで色づいていく 夏木ホタル @N_Hotaru

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