第7話

収束あるいは終息。


さて、増え続ける俺はさまざまな社会的問題をはらみながら俺俺と増え続けた。

最終的には俺一人ひとりは個人として尊重されるべき、ということになり増え続けるたびに戸籍とマイナンバーが与えられた。

多くの俺は政治家からすれば数十万人の俺が票田として魅力に映ったのも間違いない。


食料・住居の問題は解決しつつあるがもはや大半が県外に広がり介護以外の仕事をする俺も少しずつだが増えてきた。

どこでも労働力不足は深刻だ。


そしてその俺人数が1048576人に達した時点で、ある医学者が睡眠がトリガーになって増殖していることを突き止め、おれが増えないことようにできることを発見して、一斉に、おれの増殖はとまった。おれだいたい100万人。

曹操軍もびっくりだ。


100万人を超える俺たちは、数年で日本が抱えていた介護職員不足を一気に解消した。おれの介護理論に対して批判もいくつかはあったが、とにかく介護の現場の声、現状を伝えることで虐待や介護の離職者は一気に減った。

これができただけでも大半の俺は満足だ。


不幸にも事故にあって亡くなる俺や、謎の逆恨みで刺殺された俺もいたが、せいぜい数十人ほどだった。ごめん俺。

NHKはしつこく協議と勧誘を続けた結果、別世帯で住んでいる約40万世帯の俺から半額の視聴料をせしめることに成功した。法律的におれ同士は一親等の親族扱いになったので、別世帯親族のルールが適用されたらしい。


それ以外の約4万人のおれは、子供の頃、マンガ家になりたかった夢を叶えた俺(一作目はむろんこの増殖事件の話だ)、あるいは全く別の仕事をしている俺もいる。途中までは同じ経験を持った俺だが、途中からは全く別の俺になっていた。


100万人もいれば結婚をして家庭をもった俺も5万人ちょいは居た。

そんだけ居て結婚できたのは5万人か、俺なさけないぞ俺。

メディア効果があっても40過ぎの中年男性であることに変わりはないという現実。

しかしおれみたいなおっさんでも結婚できるのだ、という謎の勇気を俺もふくめて世間の中年男性にあたえたようで結婚する人は増えていくため、ここでも俺効果があった。


なかには宝くじ当てて金持ちになった俺もいるしYouTuberの俺もいる。

数年もたてば大学にいって再度勉強を始めた俺も居た。俺が俺のための基金をつくり、なんなら状況に応じて全国比例制度で政治家になった俺もいる。よく頑張るな俺。経済を良くしていくために俺のほとんどは真面目にこつこつ働いた俺が多かったのもあるだろう。職場で「選挙にでるんでしょ?いれといたから」と仕組みを理解してない近所のおばちゃんも居た。

とりあえず消費税は廃止して、ブラックな企業をなくし、官僚がギリギリ妥協し、特定富裕層が逃げ出さない程度の政策を施し、日本の経済と少子化は少しましになった。

それでも高齢化社会は避けれず、20年もすれば、100万人を超える俺が社会福祉のお世話になるだろう。老害になった俺が100万人というのは少し怖い。


残念なことにおれの名前を騙って犯罪を働く俺もでてきて「おれ俺サギ」と言われたりもした。

この俺がどういうルートでこうなったかまでは分からないが同じ人間でも環境が異なれば道を誤ることもあるということだろう。

俺の裁判の傍聴席には心配した45人の俺で埋め尽くされた。


その他の俺の使いみちは枚挙に暇がない。

バレバレの分身の術で映画に出演する俺や、前衛芸術に使われる三千人の全裸の俺、一万人の第九を大合唱する俺、俺、俺。


学術的には臨床心理学や統計学、あるいは俺同士の臓器移植や医療試験などでも俺は貢献した。なかには『正しい「俺」の使い方』などというマニュアル本もあった。これは、ある部分においてめんどくさいおっさん性格の俺の使い方マニュアルであり、当のおれも俺も含めて納得する内容であった。うまいことやりやがるな。


ともあれ、頑張っている俺を見ることで、おれは励まされた。


おれも、なかなかやるな。


そして代表者となって活動していた、おれは、いろいろな俺の記録を残している。


今日もおれは違うルートの俺と会話して「こんな俺もいるのか」とただただ感心するだけである。


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おれ100万人 きききらす @kirasux

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る