七月《2》
ついにきた本番。夜中に地震があって寝不足気味だが、休むことは出来ない。
踏み出して行くONESTEP。
ドキドキと不安と、
謎の余裕、安堵感があった。
チューニングルームから出て
舞台袖を歩く。
前の学校が終わる。
ステージを歩く。
一歩一歩確実に。
学校名が呼ばれる。
曲名は、
「静寂と躍動 ~天竜川の船大工~」。
先生が礼をする。
辺りが拍手に包まれてから
静寂になる。
指揮台に顧問が上がる。
私達を見る。
時が止まったと感じた。
その時、
手を振る。
同時に口が
「3、4」
ゆっくりと動く。
ピアノとパーカッションに目線を向け、
手を振る。
綺麗な旋律が川の流れのように、
会場を包んで、
その後にある管楽器がその静かな自然に、
合わせていく。
(パオーン)
あ、ホルンが間違えた。
が、物語のように音が進むにつれて
そんなミスは消えていく。
子守唄の旋律、
鬼気迫る低音、
全てが最高だった。
鳥の荒々しい鳴き声、
川の流れの激しさ、
勢い、
自然の厳しさ、
脳に映し出される辛いホール、
スパルタ練習の日々、
楽譜が配られたあの日から、
ステージに経つまでの瞬間、
死ぬような走馬灯が、
浮かんでくる。
歌に入る。
優しく包み込むように、
すっと、歌う。
バリサクのソロ。
先輩の滑らかな音と、
パーカッションの動き、
練習では出来なかったところが
揃っている。
ラストに近づく。
力強く、地を這うような、
自然を語るかのような音が、
顧問達の汗や涙、
終わりたくない先輩の想い、
終わらせたくない後輩の想い、
舞台袖で待っている一年の想い、
全てが最後の音に込められた。
手が握られる。
音が止まる。
時が流れ始める。
拍手が起きる。
その瞬間、また元の部員に戻って、
礼をするのか、しないのか、
部員同士の心の読みあいが
始まった。
全て終わってから、
ホルンパートが泣いていたり、
緊張からほどけて表情がやっと出たり、
行方不明者が出たり、
色々あったが、結果発表。
「銅賞、〇〇番〇〇中学校」
呼ばれる度に
歓喜の声、
叫び、
たまに、
しーんとしていて、
当たり前のようにいる学校もいるが、
私達の学校が
呼ばれるような賞は過ぎていき、
金賞発表となった。
次々と呼ばれていき、
様々な声が聞こえてくる。
(今年も無理だな。)
と思っていた時だった。
「金賞 〇〇番、宮本中学校」
と呼ばれ、
戸惑いの声、
状況を把握出来なくて泣く、
嬉しくて泣く、
「有り得ない」
「えー」
というのがホールに響く。
更に
「宮本中学校 県大会出場」
と呼ばれると
ある意味阿鼻叫喚の声が
ホール外にまで届きそうなくらい
響いていた。
創部以来初めての金賞&県大会出場。
つまり、あの人が暴れる。
顧問が。
そうして長い長い夏休みは
まだまだ続くこととなった。
ブラック吹奏楽部 月村 縁(つきむら ゆかり) @tsukimurayukari0830
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