024 『涼ヶ峰姉妹のキャンプ⑤』
キャンプ飯と言えば、カレーとかBBQことバーベキューが定番とされているが、今回はシンプルにお肉を焼いてステーキを食べることになった。
きっと吸血鬼界隈ではステーキが大流行りなのに違いない。
血の滴るようなステーキって言うし。
「いいえ、この赤いのは血ではありませんよ」
いきなり菘に否定されてしまった。
「じゃあ、なんなんだよ?」
「これはミオグロビンです」
初めて聞く単語だったので、僕は「ミオグロビン?」と聞き返した。
「タンパク質の一種で、ミオグロビンが多いほどお肉が赤くなるんですよ。なので、ミオグロビンが少ない鶏肉は色が白いんですよ」
「ふーん」
とまあ、こんな感じで菘の雑学を聞きつつ晩御飯を終え、少しゆっくりしてから(
「さあ、寝るわよ」
何故か寝るだけだというのに、芹は元気だ。
いやむしろ車の中で寝ていたので寝れないのではないだろうか?
「ほら、来なさいな」
芹はそう言って二人用の寝袋を広げた。
……そうだ忘れてた。僕は勝手にバミトントンの景品にされ、勝った方と同じ寝袋で寝ることになってたんだった。
子供の頃ならいざ知らず、今となっては流石にお断りしたい––––暑いし。
「いや、僕は自分の寝袋で寝るよ」
「それって、もしかして……アレかしら?」
芹が指差した方に目を向けると、なんと菘が僕の寝袋で寝ているではないか。
熟睡しているではないか!
「……なんで勝手に僕の寝袋使ってるんだよ……」
「それは元々私とすずちゃんがこの二人用の寝袋で眠る予定だったのだけれど、私と湊くんが一緒に寝ることになったからじゃないかしら?」
「……分かりやすい解説をどうも」
スヤスヤと寝息を立てる菘を起こすわけにもいかないし、予備の寝袋なんて当然持って来ていないため、僕は芹と同じ寝袋で寝るのがほぼ確定してしまった。
「ほらちゃんと二人が寝れるスペースもあるし、快適よ」
「……そうだな」
芹の言う通りこの二人用の寝袋は、いわゆる封筒型と呼ばれるものであり、二人で使ったとしてもそれなりのスペースは確保出来る。
のだけれど、やっぱりどうにも一緒に寝るのは遠慮したいものである。
あ、そういえば、
「これ確か……切り離して一人用としても使えるよな」
「そうね」
「切り離そう」
「寝袋無しで寝るか、私と寝るか選びなさい」
何故か僕の提案は受け入れられずに、むしろ最悪の二択を突き付けられた。
流石に寝袋無しだと寝れないだろうし、芹と一緒だとしたら別の意味で寝ることになりそうだ。
「ここでなぞなぞのお時間です」
「随分と唐突だな」
「寝る時は二人、起きたら三人、これなーんだ」
……結構難しいぞ、これ。
寝る時は二人で、起きたら三人。なんで増えるんだ?
うーん……なぞなぞの系統としては、『最初は四本足、次は二本足、最後は三本足になる生き物ってなんだ?』に似ている気がする(ちなみに答えは『人間』だ。ハイハイ、二足歩行、杖を使かって三本足だ)。
「ヒントとかいる?」
悩んでいると助け船を出されたので、僕は「いる」と素直に答えた。
「場合によっては起きると四人のこともあるわね」
「……さらに分からなくなったぞ」
なんでまた一人増える? どういうことだ?
そもそも増える理由が分からない。
「私と一緒に寝ると言うのなら、答えを教えてあげてもいいわよ」
少し考える。
どうせ寝袋無しじゃ眠れないし、答えが気になって眠れないのも
「分かった……降参だ、答えを教えてくれ」
「答えは、赤ちゃんが出来るからよ」
「妊娠してんじゃねーよ!」
アレか! 四人って双子ってことか!
「ほら、早く寝ましょう。起きたら一人増えるわよ」
「むしろ余計に寝れなくなったわ!」
「大丈夫、何もしないわ。絶対に何もしないわ」
「それ絶対に何かする時に言うやつだよね⁉︎」
「そもそも、すずちゃんが隣で寝てるのよ? 何かするわけないじゃない」
「あ、そうか……そうだな」
言動がアレな芹なわけだけれども、流石にその辺はわきまえているようだった。
これで一安心だ。
「……もしかしてそういうのか好みなの?」
「なわけ、あるか!」
わきまえてなかった。いやむしろ、僕の脇が甘かった。
芹がそんなことくらいで止まるわけがない。
「だめっ、聞こえちゃうっ……みたいな?」
「変な声を出すな、変な声を!」
「あんまり大きな声を出すと、すずちゃんが起きちゃうわよ?」
僕は菘の方を確認する。
……相変わらずスヤスヤと寝ていた。子供の頃から菘は周りがうるさくても寝れちゃうタイプだったのを僕は思い出した。
「むしろ、『一回寝たら起きないから大丈夫よ』のパターンだったかしら?」
「そんなパターンは存在しない」
「それともまさか……寝込みを襲うつもり?」
「襲わねーよ!」
「寝ている私とすずちゃんを見比べて、『ぐへへ、今日はどっちにしようかなぁ』ってするつもり?」
「まず僕は『ぐへへ』なんて気持ち悪い笑い方をしたことないし、今日はってなんだ、今日はって! まるでいつもどっちか選んでるみたいに言うなよ!」
「なるほど、姉妹丼が好みなのね」
ダメだコイツ。何を打ち込んでもエロ変換される壊れたパソコンみたいだ。
というか、絶対に芹のスマホの予測変換はエロワードだらけだ。うん、そうに決まってる。
ここで芹は突然、二の腕を手でさすり出した。
「どうした?」
「真夏とはいえ、キャンプ場の夜は流石に冷えるわね」
「なんだ寒いのか?」
芹は「少しね」と呟いた。
「なら、とりあえず寝袋入ってろよ。なんか温かいもの入れてやるから」
「分かったわ」
芹が寝袋にゴソゴソと入るのを横目で見ながら、僕はポットからお湯を入れ(先程沸かしておいた)、ハーブティーを芹に作ってあげた。
「……ありがと」
「それ飲んだら寝ろよ」
「まだ眠くないわ」
「昼間に寝過ぎなんだよ……」
先程も言ったが、移動中はほぼ全て寝てたからな。
「サキュバスにとって夜はお楽しみタイムなのよ」
「ゲームでな」
深夜のゲームは、僕たちのライフワークと化している。
しかし、芹には別の楽しみもあったようだ。
「それと寝落ちした湊くんの寝顔を見るのも楽しみね」
「お前そんなことしてたの⁉︎」
こいつ、夜な夜なそんなことしてやがったのかよ……。
「可愛いわよ、時々口をはむはむしたり、もにゅもにゅしてるわよ」
うわ、何これ……めっちゃ恥ずかしい。
寝顔見られのってすごい恥ずかしいんだな……。
「ちなみに指を入れると吸われるわ」
「お前何やってんの⁉︎」
「指フェラ」
こいつ頭おかしんじゃないかな。寝てる人にイタズラしたくなる気持ちは分からなくはないけど、限度があると思うんだよね。
よし、芹が寝たらおデコにイタズラ書きしてやる。
「あと動画もあるわ」
「今すぐ消せ!」
盗撮だ!
「湊くんのフェラ動画あるわよ」
「だから、今すぐ消せ!」
「一緒に寝てくれるなら、消してあげるわ」
再び地獄の二択だ。
だが今度は弱みを握られての二択であり、芹の方が絶対優位な二択だ。
……いやでも待てよ。
ここで仮に一緒に寝て動画を消してもらったとしても、どうせまた撮られる可能性があるのだから選ぶのは、
「お断りだ。どうせ消してもまた撮るんだろ?」
「バレたわ」
「バレバレだっつーの」
芹はあっさりと白状しやがった。
それに、こんな見え透いた嘘も見抜けない僕ではない。
芹はハーブティーを一口飲んでから、カップを握りしめるように持ち直した。
「まだ寒いか?」
「そうね、まだちょっと寒いわ」
芹はカップから手を離し、片手を差し出す。
その手を取ると、ヒンヤリと冷たかった。
「ねえ、これはお願いなのだけれど––––寝るまででいいから、隣に居てくれると嬉しいわ。本当に寒いのよ。ちゃんと寝る時には寝袋を切り離すし」
「……まあ、寝るまでなら」
そう頼まれると弱い僕であった。
僕は芹の隣に滑り込むように入り、寝袋の感触を確かめる。
……おお! こいつはかなりのふかふかだ! 肌触りもいいし、すごい寝心地が良さそうだ。こいつは熟睡間違いなしだぜ!
「中々いい寝袋だな」
「でしょ?」
そう言って芹は、僕にぴったりと引っ付いて来た。芹の肌がヒンヤリとしており、ちょっと気持ちいい。
だが、流石にくっ付き過ぎだ。
脚と脚は当たってるし、腕は絡んでくるし、胸は重い。
「あのさ、寒いのは分かるけどあんまり引っ付くなよ」
「同じ所からコタツに入ってるようなものでしょ」
言われてみればそんな感じではある。
今は冬じゃなくて、夏だけどね。
とまあそんな感じで、しばらく寝袋の中で寝そべっていると、一緒に寝袋に入っているためか、寝袋はすぐに温かくなり、ポカポカとし始めた。
そして、僕は温かくてふわふわな寝袋のおかげで、気持ちのいい睡魔を感じ––––そのまま寝てしまった。
翌朝、目が覚めると当たり前だが寝袋は繋がったままで、芹は僕に抱き付くようにして寝ていた。
まあ、先に寝ちゃったわけだし文句は言えまい。
それと芹のなぞなぞは少し当たった。
芹の言った通り、寝て起きたら三人になっていた。
それは芹とそういうことをしたというわけではなく––––菘が僕の隣で寝息を立ていたからだ。
あとで聞いた話によると、菘も肌寒かったらしく、こちらの寝袋に潜り込んで来たらしい。
おかげで二人で使っても快適だった寝袋は、パンパンに膨らんだ給料袋のようになってしまっていたのであった。
僕の体液はとても美味なのでサキュバスと吸血鬼に狙われてます 赤眼鏡の小説家先生 @ero_shosetukasensei
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