「魔法の雨で服溶け女子&騎士団長(←これ重要)多数発生“よっしゃぁ!”なので 誰かが着替え持っていこう戦記!」

低迷アクション

第1話

「魔法の雨で服溶け女子&騎士団長(←これ重要)多数発生“よっしゃぁ!”なので

誰かが着替え持っていこう戦記!」


 ふいに雨が降り出し、城下町のあちこちで、女の子の悲鳴や、

野郎の歓声、怒号が上がり始めた時、“人外騎士団パンデモーニア”所属の“黒騎士クロウ(くろきしクロウ)”は自身の上司、女騎士団長がちょうど外出中という事に気づき、慌てて通りに飛び出すと

同時に、


「キャアアアー、見ないでー!!」


と顔面真っ赤かつ、衣服が溶けて肌がポロリな町娘に顔面、と言っても鉄仮面に覆われた

顔に跳躍&の飛び蹴りをかまされ、地面に片膝をついた。


「クロウの大将~、大丈夫かあぃ?」


「白…いや、“サーベル”か?問題ない、大丈夫だ。」


近くに駆け寄ってきたのは、毛皮に装甲鎧を取り付けたネコ科の獣戦士“サーベルキャット”のサーベルだ。クロウと同じく人外騎士団に所属する戦友であり、

“人間側に味方した魔物”の1人である。


「この悲鳴は何なんです?」


「わからん、すぐに城下を周り、事態を掌握する必要があるな。」


「了解、しかし、大将!あんまり、俺達が町を、のし歩くと、警備の兵士とか

良い顔しませんぜ?この間だって、あいつ等、俺達に喧嘩を吹っかけてきやがった。」


「そこまでだ。サーベル、戦は終わった。もう俺達魔物と人間が手を結ぶ時代だ。

その証明のためにも、我々は動かなければいけない。外に出てる団員を呼び集める意味もある。行くぞ!」


髭を震わし獣性を露わにするサーベルを宥め、黒騎士は雨の溜まり始めた路上を蹴りあげ、

にぎやかな街に駆け出して行った…


「で、状況を確認しますとですね。ハイッ!この雨に触れると、衣服が溶ける。しかも女性限定?すっげぇ、都合良い魔法がどうやら城下内に降る雨に

かけられるているようであります!」


“メイサイフク”と呼ばれる異国の軍服を纏った“軍曹(ぐんそう)”が

集められた人外騎士団員達に報告を入れる。“テンセイ”という僻地からやってきた

彼は当初、鉄の塊などを飛ばす魔法とは違う方術を使い、暴れ回ったが、


「タマが切れました…」


を一言に黒騎士達に合流し、仲間となった。“タマが切れる”前は巨大なドラゴンでさえ、

1人で倒す彼だったが、現在は情報集めや、団員のサポートなどの裏方に回っている。


「ありがとう、軍曹。しかし一体誰が、こんな真似を?」


「大方、俺達の事を良く思ってない城の連中じゃないすか?クロウさん。」


“敬礼”という動作をする軍曹の横からはみ出した液体騎士“スライマー”が横槍を入れる。

全身がスライムのため、自由に体を変形する事が出来るので、着ている甲冑の意味は

あまりないが、頼りになる仲間だ。


「ううむ、人と魔物の争いを終わらす志の元、騎士団長の元に集まった我等だが、それを良く思っていない連中も多いと聞く。軍曹の報告によれば、

衣類が溶けるだけで、身体に問題はないとの事。我等が出張る必要はないが…一番の

問題は…」


「俺等の団長さんが外出中で、あられもない姿になってる可能性が大って事ですな!

大将!!」


鼻息荒いサーベルがクロウに捲し立てる。今まで、市外を駆けまわっていた彼だが、正直、外に出すべきではないと思っていた。騎士団に入る前は、山賊の真似事をしていた彼だが、


時々、野生に帰り“獣パワー全開”の時がある。恐らく、裸でキャー、キャー言う町娘達の

声や香りと言った雰囲気に酔い、興奮の絶頂と言った所だろう。


「落ち着け、サーベル!そして、気になるんだが、何で、甲冑の周りに女物の衣類が纏わりついてる?まさか、お前…襲ってないよな?」


「‥‥‥‥勿論!これは、走り回ってる時についちゃっただけです。それはそうと!大将!

いいんすか?通りにいた女の子の中には、服溶けすぎて、ほぼ全裸ー!みたいな子も


いましたぜ!ウチの団長は騎士の誇りとかを気にする人です。“くっ、殺せ!”とか言って、

誰も殺ってくれる人いなかったら、最悪…自害とか考えちゃいませんかね?」


「………あり得るな…」


気丈な団長の顔が浮かぶ。長きに渡る戦いを終わらせた彼女。終わらせたのは

戦いだけでない。相容れる事の無かった人と魔物という二つの存在を繋ぎ、現在の発展に

貢献した。そんな団長が生まれたままの姿に‥‥


(いかん、アイツなら、確実に舌を噛む!)


思わず、頭を抱えるクロウの腕にそっと手をかける物がいる。


「軍曹?」


「こんな事もあろうかと、彼女にコレを渡しておきました。バッテリーが、いえ、

まだ使えると思います。」


軍曹が手にしているのは“通信機”というモノだ。これをもう一組持っていれば、遠くにいる相手と話をする事が出来る。クロウの頷きに、軍曹は操作を開始した。


「もしもし、こちら、軍曹!軍曹です!!団長、聞こえてますか?聞こえてたら、

赤いボタンを押して、渡したコレに話しかけてみて下さい。」


通信機に全員の視線が釘付けになる。獣特有の荒い息が詰め所に充満していく。


「‥‥…軍曹?…」


「団長っ!?(全員の咆哮やら、跳躍、腕を振り回す、鎧を叩く音が重なる。)

ご無事ですか?てか、今何処にいるでありますか?」


「町を出た所、近くの木の下、いきなり、雨降ってきて……そしたら…えっと、出られなくて、雨除け、忘れちゃったし…」


「団長、ご安心ください。

俺達は事態を把握しています。今、誰かのイタズラ魔法で、雨に当たると

女の子の衣服が溶けると言う状況が、城下でも発生しています。


恐らく、団長もそうなってると思います。そこで我々が着替えを持って、駆け付けますので、具体的な場所と“どれくらい服が溶けたのか?”をご報告願います。」


「…えっ?‥‥……」


団長の戸惑いに、全員の喉が鳴る。スライマーは、その全身を蠢動させ、サーベルは血走った目を見開く。


クロウが全員を宥めようと、声をかける前に軍曹の持つ通信機が鳴る。


「えっと…実は今日私服でさ?…いつもみたいに鎧とかじゃないから、ほぼ全部

(人外連中が“オォォォォーッ”と咆哮を上げた)下着とかも…ザザザザーッ」


「イカン、電波の状態がっ!」


「いや、重要事項は全部聞けたぜ!軍曹!!ナイスだぜ!」


「いや、大事な事聞けてないだろ?サーベル?場所とかさ?」


「そんな事ないですよ!クロウさん、団長は、現在生まれたまんまー!これ重要!!」


ヌメヌメする手を翳し、スライマーが吠える。他の仲間達もそれに続き、咆哮を上げていく。

一瞬、団長の一糸まとわぬ姿のイメージがクロウ自身にも浮かぶが、それを振り切るように

頭を全力で振り、どうにか心を落ち着かせる。


「問題はぁぁっ!誰が団長に衣服を届けるかぁ?だなっ?」


「オオオッ!」


1人悩むクロウを尻目に、勝手に盛り上がる団員達!


「ハイッ!自身のスライム能力を使えば、団長を全身固めて、というか、衣服のように

纏わりついて、安全にここまでお連れできます!!」


「なにおうっ!俺の毛皮パワーを最大限に発揮すれば、皮を伸ばして、団長の柔い肢体を

もれなく、スッポリ包んでお持ち帰り出来るぞ!」


「ワシの得意も聞いとくれ!それはズバリ!大口収納!このガマ口の中には、

人間1人くらいスッポリでさぁっ!ほら、この通り、裸で困る少女を救出、グハッ、な、何をするクロウ殿?」


「スライマーじゃぁ、全身透けるだろうがっ、バカ野郎!サーベルは勿論、却下!

お持ち帰りって何だ?そして、ガマ以外の誰か、すぐに、この子を元いた場所に返してこい。」


団員それぞれにツッコミを入れ、加えて大蛙の騎士の口内から、震える少女の救出を、

ほぼ同時にこなし、クロウは、ため息をつく。


しかし、不味い状況だ。団員全員が、憧れの団長の裸体目当てに狂喜乱舞状態。何か御する

方法を考えねば、それこそ、団長と自分達が築いてきた平和が崩れるというモノだ。


「大将、何故止めるんです?俺達は団長の事を想って、言ってるんです。それとも

あれですかぃ?大将は、あの人の独り占めを狙ってるんじゃないでしょうね?」


「何ィィィッ!それは本当っすか?クロウさぁぁん?」


サーベルが剣の様に爪を長く尖らせ、それにスライマー以下、人外の団員達が続く。


(不味いな…)


クロウも自身の手を腰の剣に滑らせる。


「わひゃぁああっ、クロさん~、服が、服がぁぁっ!」


およそ、場違いな、泣き声に、全員の動きが止まり、視線が一気に入口へと移行する。

そこには、大きな獣耳をヒョコヒョコさせた、半裸の少年狼剣士“白狼”の姿があった。


「白狼!一体どうした?」


「わかんない、雨降ってきて、急にボクの衣服が溶けちゃって~、もうヤダ~、

なにコレ~?」


耳を伏せ、両手で顔を覆いながら、えづく彼に近づく。だが、異様な雰囲気を背後に感じ、

慌てて振り向く。


「白狼、オメェッ、男なのに、なんで服が…」


髭をピクピク、腕をプルプルなサーベルが呟く。


「サーベルさん、もしかして、ハクさんはあれじゃないすか?いわゆる“男の娘”じゃぁ?」


「そ、そうか、なら、確かめてみねぇとな~っ?」


「えっ?」


「ウオオオオッ」


「わひゃぁあああっ!」


クロウを押しのけ、人外の群れが白狼に飛びかかる。悲鳴を上げる白狼が逃げ惑うのを、

助けるべきか惑うクロウの手に、通信機がそっと手渡される。


「軍曹?」


「コイツはGPえ、いえ、団長の位置情報がわかる奴です。後は俺達で何とかしますので、

お早目に!」


「すまん、恩に着る!」


軍曹に敬礼にクロウはぎこちないが、敬礼を返し、暴れ回る人外の群れの中に飛び込んだ…



 「魔導士よ?状況はどうだ?」


男の声に黒衣を纏った人物が静かに頷き、手にした水晶を掲げる。光輝く水晶の中には、

何処かの木の下で、胸と下腹部を抑え、ほとんど何も、身に着けていない騎士団長の姿が

映る。どうやら首尾は上場のようだ。男は満足そうに頷いてみせる。


後はこのまま、彼女を長い時間放置し、辱めるも良し、近くを通りかかった、野良の魔物に

襲われるもよしだ。魔導士が降らせる雨は広域に影響を及ぼしている。まさか、団長1人を

狙ったモノとは誰も思わない。


念には、念を入れ、団長を襲わせる手配をしておこう。そう思い、呼び鈴を鳴らす手に、

不気味な液体が纏わりつく。驚愕に見開く目は魔導士の首に素早く手刀を叩き込む異国の

兵士の姿も捉える。確か、コイツは、いや、コイツ等は…


「軍曹、そして、スライムの化け…(液体に力が籠り、慌てて言葉を撤回する)?

人外騎士団の貴様等が何故ここに?」


「俺のいた国ではですね?“大臣”偉い人の部屋には大抵、会話を盗み聞きする盗聴…いえ、

魔法があるんですよ。だから、貴方の声は全部筒抜けだ。それでも念のために確認だ。今回の指示は王様ですか?」


「……いや、私の独断だ。今の王様にしろ、王妃、王子に至るまで、ドラゴンにエルフや

妖精は友達だと思っておるよ。」


「安心した。まぁ、大臣の気持ちもわからなくはない。貴方達の世代は、常に彼等の脅威と

戦い、平和のために邁進してきた。それがいきなりの和解。とてもじゃないが無理でしょう?」


軍曹の言葉に大臣は彼をしっかり見つめる。目元に走った二本の切り傷が、

静かに物語っていた。


(彼も同じか…)


大臣は目を閉じる。いつの間にかスライマーの拘束は離れていた。


「でも、それは、あの団長さんだって、同じです。彼女は親を魔物によって亡くしてる。

普通なら、連中が憎くて堪らない筈だ。


しかし、あの人はそれを許した。大いなる共生のために…

正直凄いと思いますよ?どうです?彼女の精神を、少しは汲んであげてもいいじゃないですか?」


「…‥‥善処しよう。どうやら、君も相当な人生を歩んできたようだしな。当面は君達に

対する干渉を控える。」


「感謝します。ありがとう、大臣…それと今回の魔法で困った女性達の衣類の弁償を…」


「無論だ。しかし、軍曹、君も相当の道を歩んできたようだな。」


大臣の言葉に、軍曹はニヤリと笑い返す。


「ええ、だから、ここに来たんです。」…



 「遅くなった。ハイ、これ…」


木の陰からそっと美しい肌に衣類を羽織らせる。正直、もう少し見ていたいが、

そんな場合じゃないだろう。


「あ、ありがとう…(しばらくの衣擦れの音)…すまん、助かったぞ。クロウ!」


いそいそと服を整え、無線と先程の少女らしい、心細い感じから、騎士としての威厳を取り戻した様子の団長が話しかけてくる。


「軍曹の無線機を使わなくてもわかった。ここは俺達にとって始まりの地だろう。」


「そうだ、一緒に戦った仲間達に会いに来た。」


団長が遠い目をする。クロウもそれに習う。

人外騎士団が旗揚げをした場所、始めはこの娘と剣を向け合った。先に武器を下げ、

手を差し出したのは彼女の方からだった。


あの手を取った時、自分の人生は変わった。共に戦う仲間達が倍に増えた。失った者もいる。

でも、それにも増した、出会いや発見もあった。


「迷惑をかけたな。」


「いつでも、助けるよ。俺達は互いに支え合う、そうだろう?」


「うんっ!」


団長が嬉しそうな笑みを浮かべ、コクンと頷く。そんな二人に向かって、賑やかな咆哮と

地響きが続く。見れば、自身の毛皮を半分むしってコート風にしたモノを持ったサーベルに、

その他、様々な衣類と自分の皮を持った人外の騎士達がこちらに走ってくる。


「クロウ、行こうか!」


「了解!」


走り出す二人に合わせるように雨は止み、穏やかな陽射しが大地を照らし始めた…(終)


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