犬翻訳アプリ、使ってみました
俺は、スマートフォンに通称犬語翻訳アプリ『ワンワン~犬の気持ち、わかるかワン?~』をダウンロードして試してみることにした。
俺は座っている『はなび』に声を掛けながら、スマートフォンを近づけていく。
「ほーらはなび、鳴いてごらん」
「ヴヴッ……ワン!」
少し威嚇気味に吠えた後、音を認証して、アプリの中に言葉が人間後に翻訳される。
『なんだよ、この野郎』
いきなりメンチ切られた。
「おぉ……結構当たってるじゃねーかこのアプリ」
「じゃあ……もう一回っと」
今度は、スマートフォンを後ろに隠しながら、はなびの頭をヨシヨシと撫でてあげる。
「くぅーん……」
可愛らしい声の後、後ろに隠していたスマートフォンの画面を確認してみる。
『撫でられるの……気持ちイ~ワン……』
適当にそこら辺のストアの中から拾ってきたアプリのため、所々日本語表記が可笑しいところがあるが、大体予想した通りの答えが返ってくるので、この翻訳アプリは正常に動いているといえる。
「……ワン……」
今度は、か細い声で少しだけ鳴いた。
するとまた、翻訳アプリが翻訳してくれる。
『もっと撫でて?♡』
ハートマークまでついている。
全く……甘えん坊さんで可愛いなこの野郎!
俺は期待に応えるようにして、さらに頭をガシガシと思い切り撫でてやる。
「クゥーン……」
『あぁ……幸せぇ~』
俺に撫でてもらえるのがご満悦の様で、頭を撫でられながら心地よさそうなにしている。
充分頭を撫で終えると、今度は前足を俺の膝辺りにあてて、そのくりっとした目で見上げてくる。
「……ワン!」
『部屋行こう!』
「なんだ? 俺の部屋に行きたいのか?」
「ワンワン!」
『行きたい! 遊んで!』
「仕方ないなぁー」
俺はぐっと力を込めて、抱っこして持ち上げる。
すると、俺が抱きかかえる中で暴れ出す。
「ワンワン!」
『ちょ、ちょっと何するワン!?』
「犬に階段上らせるのは、健康上良くないからなぁー。って、ちょっと重くなったかお前?」
「ワッ……ワン!」
『失礼な奴ダワン』
俺の腕の中からひょいっとジャンプするように抜け出すと、リビングの空いていた扉から一目散に逃げていき、階段を駆け上がって先に部屋へと向かって行ってしまう。
「こらはなび! はぁ……ったく仕方のない奴だなぁ……」
ため息を吐きながら、俺も後を追って自室へと向かう。
扉を開けると、そこには先に俺の部屋に向かっていたはなびが、顔を赤くしてギロっとした目でこちらを睨みつけていた。
「酷いよお兄ちゃん! 乙女に体重の話するのはご法度だよ!!」
そう言って、妹の『はなび』は、失礼極まりないと言った様子で俺に牙を向けてくる。
「いや……俺はただ、妹の成長をしみじみと実感してただけで……」
「だからって、重くなったとか年頃の女の子に言うとか、あり得ないから! それに私……お兄ちゃんに抱っこされるなんて……はぁぁぁぁ恥ずかしい……」
先程俺がはなびを抱っこしたのを思い出しているのか、恥ずかしそうに顔を手で覆い隠して身を捩るはなび。
発端はリビングで二人炬燵の中でくつろいでいる時の事。妹が唐突に『はぁ……犬になりたいなぁ~』っと言い出したのがきっかけ。
そこで俺が、冗談半分でゲームを勝手に始めたのだ。
「じゃあ、今から人間語禁止な」
「へっ!?」
「はい、よーいスタート」
こうして始まった、従順な妹との単なるじゃれ合いの遊び。
だが、結局「ワンワン」喋る妹の気持ちが理解できなかったので、犬翻訳アプリをダウンロードしただけの話。
俺と妹の忠犬はなびごっこ遊びは、いつもの日常に溶け込みながら、幕を閉じた。
短編集 さばりん @c_sabarin
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