第2話 出荷
【平成30年11月4日(日曜日)】
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドシャーーーン…
途轍もない轟音で僕は目が覚めた。窓の外を見ると、景色を見る隙間もない程の豪雨。この様子からすると、さっきの轟音は土砂崩れの音だろう。僕は町と唯一繋がっている一本道が無事かどうか気掛かりだった。僕は情報を得ようとスマホを手に取る。しかし、現在の状況がどうでもよくなるようなことを思い出した。
「あ、あれ?イコンちゃんが居ない…。昨日…抱きしめたまま寝て…それから…あ、まさか…。」
僕はすぐに部屋を飛び出し、両親のもとへ向かった。
リビングに両親は居た。そこでは父さんがひとつの大根を鉄製の大きな箱に入れようとしていた。それは紛れもなく僕が愛するイコンちゃんだった。
「と、父さん!何してるんだよ!」
「おっ、ひかる起きてたのか。ていうかお前、これ隠してただろ。いつも言ってるじゃないか。人型の大根は呪われているから、見つけたらすぐに私達に渡しなさいって。」
「そんな迷信いつまで言ってんだよ!そんなことどうだっていいから早く返して!」
「駄目だ。これはお前には触らせない。」
父さんが箱のふたを閉めようとするが、僕は冷静さを失っていた。
「やめろぉぉぉ!」
父さんに向かってタックルをし、イコンちゃんを強奪した。
「ひかる!何してるの!今すぐ返しなさい!」
いつもは優しい母さんが語気を強める。
「嫌だ!この子は僕のものだ!」
「この子って…お前なぁ。しょうがない、本当はこんなマネしたくなかったが…」
そう言って、父さんはリビングから出ていく。その時、
バラバラバラバラバラバラバラバラバラ…
ヘリコプターの音が聞こえてきた。恐らく土砂崩れによって、すでに道が寸断されており、僕たちを避難させるためにきた救助ヘリだろう。
そんなことに気を取られていると父さんが戻ってきた。しかし右手には拳銃。
「本当はこんな手荒な真似はしたくなかったのだが。これでもお前が返さないというのなら、いくら息子といえども優しくは出来ない。」
「そんなもので脅すなんて親失格だね!」
「何とでも言え。俺は本気だ。」
銃口をこちらに向け、引き金に手をかける。
「わ、分かったよ、父さん…。返すよ…」
僕が命の危機を感じあきらめかけたその瞬間、
ガチャ ドタドタドタ
救助隊員が家に入ってきた。
「皆さん!ご無事でしょうか。直ちに避難していただきますので、早く……」
父さんが持つ拳銃が目に入る
「な、何ですか!それは!」
「何って、拳銃だよ。」
「本物か?」
バァン!…
「本物だ。」
救助隊員の胸から血が噴き出す。数秒後、崩れ落ちる体。僕は呆然と立ち尽くす。
父さんは落ち着いた様子でスマホを取り出した。
「もしもし、もしもし、あぁ俺だ。はぁ…まずい状況になった。バレそうだ。……あぁ分かった。頼む。」
少しばかり沈黙が訪れた。しかし、数秒後沈黙を破るように、何かが飛来する音がした。その瞬間、
ドガガガガガドゥワーーーン!
上空でホバリングしていたヘリコプターが爆発し墜落した。
父さんが窓の外を眺めながら言った。
「とりあえず一件落着だな。ふぅ…。さぁ!ひかる!これで分かっただろ。そいつの重要さを。だから…渡せ。」
「と、父さん…。おかしいよ…。そんな人を簡単に殺すなんて…。」
「おかしいのはお互い様じゃないか。大根に恋をするなんて。」
「うるさい!僕はイコンちゃんを本気で愛してるんだ!」
僕は咄嗟に窓を開け、外へ飛び出した。
「待て、ひかる!逃げても無駄だぞ!」
父さんの言葉を無視し、ひたすら走った。一寸先が見えない豪雨の中を闇雲にとにかく走るしかなかった。着の身着のままの僕が持っているものと言えば、イコンちゃんとポケットの中のスマホだけ…。
抱えきれないほどの謎を残したまま、僕とイコンちゃんのゴールの無い逃走劇が始まってしまった。
平成最後のメガ大根 ゆのまる @yunomaru
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