過程など蛇足。

非常に気持ちの良いショートショートです。
私はあまり異世界ものというものが得意ではありませんが、それでもこれは素直に推せます。

まず起承転結の結から始まります。そしてそれ以外は語りません。それ以外の見知った展開など潔ささえ感じられます。

それでもこれは一組の男女の物語として確かに成立しています。

榊信治という少年が嶋原由梨という少女を異世界から現実へ、勇者からただの女子生徒へと引き戻すための物語として。

彼らのことを知る機会は多くないけれども、それでも言動の裏から我々の知らない旅路をどう生きてきたのかが察せられ、1万字足らずの世界で充分に魅力あるキャラクターに仕上がっています。

そして人生という劇場において、彼にとっての一幕が終わり、彼女にとっての新たな演目が始まる。
熱くヒロイックでありながらも、青春ものとして非常にさっぱり爽やかに締めくくられている。その温度差が心地よい。
そんなふうに思える良短編でした。