31.【閑話】生を選ぶ勇気

1


「お母さん、街の外で話してるのは誰?」


 私は窓の外を指さして母に話しかける。


「あれは、教会の人じゃないかしら?ほら、服装も牧師さんみたいだしね」


 お母さんはそう言って私の頭を撫でながら笑う。


「そっか」


 その答えで窓の外への興味は無くなり、テーブルに戻ろうとする。

 その瞬間、辺りは尋常じゃない光に包まれた。続いて爆発音。


「きゃぁぁあああ!?!?」


 先程まで団らんしていたはずのダイニングは突如として炎に包まれた。

 至る所から火の手が上がる。

 私の、今まで過ごしてきた街が、思い出が、全て焼け落ちていく。


「お母さん!お母さん!!助けて……!」


 私の声は、断続した爆発音によってかき消された。


「はっは、これが我々教団の教えに背いた罰だ!このまま、我々に反抗したことを後悔しながら朽ちてゆくがいい!!」


 女の声が聞こえる。

 声の方を向けば、そこには先程家の中から見ていた牧師が杖を構えているのが見えた。

 恐らく、この女が街に火を付けた犯人なんだろう。

 このままでは殺されてしまう。

 とにかく、私は逃げ出すことだけを考えて体を起こした。


「……っ!」


 足を見てみれば、そこには深々と突き刺さった木片が。

 苦痛に顔を歪ませながら、しかし耐えて体を支えながら立つ。


「助け、助けを……!」


 足を動かす度に刺さった木片が絶えること無く痛みを与えてくる。

 振り返れば歩いてきた道には血の跡が点々と続いている。

 下手をすれば失血死しかねない。

 その前に私はこのことを誰かに伝えなくてはならない。

 そのためには歩け。

 歩いて、歩いて、歩き続けるんだ。

 運良く、この街の周辺を今日大きな学生の集団が通るらしい。

 どうにかそこまでたどり着き、この一大事を伝えなければその集団まで襲われかねない。

 私は片足を引きずりながら大通りへと向かった。


「これでこの街は終わりか?」


 後ろから先程の牧師の声が聞こえる。

 気づかれないよう注意しつつ、私は音を立てないように草むらの陰に隠れた。


「死体の数が足りません」

「どうせ炭になったか家の下敷きだろうよ、ほっとけ。どうせこの火事じゃ、生きてはいられないだろうからな」


 目の前で話す牧師たちは私に気づいた様子はない。

 私は足音を殺して必死に前へ前へと足を動かす。

 そして、やっと大通りに出る茂みの前までやってきた瞬間、声はかけられた。


「おい、そこのお前」


 私は息が止まった。

 やっとここまでやってきたのに、直前で台無しになるのか。

 後ろを振り返ると、そこには部下に命令する牧師が。


「この街での教団に所属する信者の数を探せ」


 私はほっと胸を撫で下ろし、そして一度横になることにした。

星が綺麗だ。人生で最後の星というのが、なかなか乙なものであると知って少し嬉しくなった。

 私はもう死ぬ。

 ならば、せめてその前までの生き方くらい自分で決めても良いのではないだろうか。

 道路の上で私は目を瞑り、そしてそのまま夢の世界へと沈んでいった。

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フェイク・インフォーム~転移した三十歳童貞の異世界頭脳戦~ 華月 すみれ @SUMIRE-H

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