30.出発しんこーう!
1
翌朝。
朝のまどろむ時間もほどほどに、ケーナちゃんと俺はクラスメートの集合場所である中庭に向かった。
中庭に着くとそこにはほとんどのクラスメートが集まっており、馬車の集団もあった。
「わぁ、こんなに大きな馬車に乗るのは初めてです……」
ケーナちゃんが目を輝かせながらそう呟く。
その視線の先には高速バス程はあろうかという大きさの、巨大な客車を引いた馬車が止まっていた。
「それでは皆さん、そろそろ集合した頃合いでしょうからミーティングを始めますよ」
そこに、いつものローブとは違って少しラフな格好をしたマドル先生がやってきた。
「今回の企画は修学旅行と銘打ってはいますが、内容は研修のようなものです。この四日間でより多くの知識をつけるよう努力する姿勢を忘れないように!」
マドル先生の声で、クラスの雰囲気が引き締まる。
「それでは、生徒はあちらの客車に乗り込んでもらいます。大きな使い魔を召喚した生徒は別に使い魔用の客車がありますので、そちらに預けて下さい」
そう言って、生徒が乗る用の客車を指さす。それは先ほど見ていた大きな客車だった。
「なぁ、ケーナちゃん、俺って使い魔専用の客車に乗らなきゃダメなんかな」
「サイエンさんは大丈夫だと思いますけど……」
どうなんだろうか。一応ダメだった時はその時ってことで、俺はケーナちゃんに着いてしれーっとバスの列に並ぶ。
幸いにも俺はぎりぎり乗ることができた。
ほかの生徒もネズミの様な使い魔を召喚した生徒は膝の上に乗せていたりするし、使い魔がバスに乗る分には別に構わないんだろう。
分けられるのは本当に一部の大きな使い魔のみらしい。
マドル先生が全員乗り込んだのを確認し、最後にマドル先生自身が乗り込んでから御者に合図を出すと、ゆっくりと馬車が動き出した。
そして徐々に馬車はスピードを上げていき、かなり早くなると馬車の中からは生徒たちの歓声が上がった。
それにしても、馬車の中に乗っているにしても全く揺れないな、これ。
これもやはり何かの魔法を使っているのだろうか。
「なんでこの馬車はこんなに揺れないんだ?」
俺が尋ねると、ケーナちゃんはいつもの調子で答える。
「実はですね、この馬車は若干ですが地面から浮いて走行しているんですよ」
まさかの方法で揺れを抑えていることに驚きを隠せなかった俺は、そのままマジかよ、と呟いてしまった。
「わかります。私も最初は信じられせんでした。どうやらこのタイヤは魔力が切れたときに使用するという目的で付いているようです」
なるほど、そんな理由だったのか。
それにしても、揺れが全くない。
コンダクターっぽい人がみんなにコーヒーやオレンジジュースを配ってまわれるくらいなんだから、かなり揺れは抑えられている。
「コーヒーをどうぞ」
俺とケーナちゃんの席にもコンダクターの人がやってきて、俺にコーヒーを手渡してくれる。
ケーナちゃんはオレンジジュースを受け取った。
「さて、ケーナちゃん。一つ、俺は伝えておきたいことがある」
「何ですか?」
この馬車の中で話す事でもないかもしれないが、わりかし重めの話をしようと思う。
「実はだね、私はとうとう二つ目の魔法を昨晩習得することに成功したんだよ」
「本当ですか……!?」
馬車の中なのであまり大声を出さなかったが、その代わり目は大きく見開いた。
「ああ、ちょっとやってみるぞ……」
俺は、目の前の配られてきたコーヒーにミルクを注ぎ、かき混ぜる。
二つの色は混ざり合って、完全に茶色へと変化した。
「よし、準備は完了した。いくぞ……」
失敗しないように意識を集中する。
「トランスレイト、『
魔導書に載っていた魔法をコーヒーにかけるように発動すると、意識した通りにミルクだけを凍結させることに成功した。
「……よっし、成功だ」
目の前のカップにはミルクでできた氷がコーヒーの上に浮かんでいる。
それを目の当たりにしたケーナちゃんは、驚いている。
そうだろう、そうだろう。こんな短期間で二つ目の魔法も覚えたのだから。
ちなみにこの魔法は、液体の分子運動を抑制することによって温度を下げ、そして凍らせるという魔法だ。
「水属性の魔法……、なんで使えるんですか?」
しかし、質問されたのは焦点の少しずれた質問だった。
言われて思い出す。
確かに俺は火属性に適性が出ていたはずだ。しかし、守護結界は風属性に似たような魔法があるといわれ、この魔法は水属性に似ているといわれた。
これは今後調べていったほうがいい事柄かもな。
「ごめん、俺にもよくわからない。魔導書に書いてある通りに使ってみたらうまくできたんだ」
ここは素直に言っておこう。
今後ケーナちゃんが何か情報になりそうな話をつかんだ時、ここでの話を思い出してこっちに持ってきてくれるかもしれないしな。
「そうですか……。それでも、複数の属性を扱えるのはすごいことなんです! さすがです!」
手放しで喜んでくれているケーナちゃんに、俺は喜んでいいのかどうか分からなかった。
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