29.遠足の前日って楽しみで眠れなくなるよね

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「あっ、おかえりなさい。文字の方はどうですか?」


部屋に戻ると、ケーナちゃんは部屋の真ん中で大きなカバンに服を詰めていた。


「ああ、順調って感じだな。それよりその荷物、どうしたんだ?」


俺が話しかけると、忙しなく動かしていた手を止め、こちらに向き直って口を開いた。


「実はですね、明日からクラスのみんなで修学旅行に行く予定になってまして。隣の大都市なのですが、そこで職業研修と都市観光を行う三泊四日の旅行になるのでそろそろ持っていく荷物の準備をしておこうと思いまして」

「修学旅行? そんな時期なのか」


 俺が質問するとケーナちゃんは微笑んで答える。


「そうなんですよ。高学年になると仕事を探したり、王立魔法研究所で勉強したり、そんな感じで進路を決めなくちゃいけないので修学旅行は忙しさがまだ落ち着いている中学年のこの時期に行くんです」


 ほうほう、なるほど。

 ということはあれですか? 僕も明日には結構大きな町を回れる感じなんですか?


「俺も、都市の観光とかできるのか?」

「そうですね……、普通は使い魔は部屋で待っているらしいですけど。いざというときは召喚魔法も使えるので」


 え、俺せっかく都市に行っても見学できずに部屋で四日間過ごさなきゃならんわけ?

 ん? ってか、その前になんか今気になること言ってたよな。


「召喚魔法があるのか?」

「ええ。緊急時とか、手が必要な時に自分のもとに使い魔を呼び出すことができる魔法です」


 ほぉう、その魔法、少し気になってきたな。


「なるほど、そんな魔法が。では、その魔法は逆に使い魔をどこか遠くに飛ばすこともできるのか?」


 俺が質問すると、ケーナちゃんは顎に手を当てて少し考えるように唸った。


「うーん。どうなんですかねぇ。召喚魔法はそもそも呼び出すことを考えて作られた魔法ですので、物を転移させることができるのかどうかは、ちょっとわからないところですね」


 なるほど。そう簡単に地球には帰してくれないわけね。

 いいさ。この世界での生活もなかなかに気に入ってるし、しばらくはこのままケーナちゃんの使い魔として行動しようじゃないか。


「それで、修学旅行で行くその都市の名前ってどんな感じなんだ?」

「ヴェルグっていう、この国で最も大きい大都市です」


 ヴェルグ。

 その名前を聞いて俺はある一つの、大きな問題に思い至った。

 俺、この世界の地理全く知らねえ。


「な、なぁ。こっちから聞いといて悪いんだけどさ、地図みたいなもの見せてもらっていい?」

「いいですよ。あ、そういえばサイエンさんには国の説明をしてませんでしたね」


 ケーナちゃんはちょっと待っててください、と立ち上がると、本棚から一冊本を取り出して俺の前に持ってきた。


「えーっと、このページですね。まず、私たちがいるこの『ヴァラン国立魔道学園』は、海沿いのここにあります」


 そう言って二つある大陸の内の東側、その大陸の海沿いにある大きな国を指さした。


「そして、その中でも最も大きいといわれているのがヴェルグっていう、明日向かう都市なんです」


 ほう。

 この地図は念のため頭に入れておいたほうがよさそうだな。


「それで、この都市はかなり産業が発達してて、私達みたいな学生がよく研修に行くみたいなんですよね」

「なるほどな」


 これは修学旅行、観光してるだけでも十分楽しそうだな。


「都市の説明はこんな感じです。……それで、魔法の練習は今どんな感じですか?」

「え? あぁ、順調も順調。このままいけば、二つ目の魔法が覚えられそうだ」


 そう、かなり覚えるのに苦労しているが、もう少しすれば二つ目の魔法も覚えられそうなのだ。

 これもあの魔導書に書いてあった魔法だが、こっちの魔法も守護結界ディフェリオより使用頻度は低いにしても、かなりの重要な場面で使えそうなんだよな。

 まあ、効果の規模は使えるようになってみてから試すとしよう。


「よかったです。……それじゃあ、準備も終わったのでそろそろ休みましょうか」

「そうだな。明日は早いんだろうし、早寝して早起きしよう」


 あぁ、今から明日が楽しみになってくるぜ。それじゃあ、俺も休むとするか。

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