28.トリリンガルになりたいっすわ
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あれから数時間。
ハーキンは隣でFXで有り金をすべて溶かしたような顔で伸びている。
「よし、これで文字は全部か?」
「……あぁ、そうだよ」
隣で疲れ切ったようにハーキンは答える。
「でも、こんな時間まで付き合っても大丈夫だったのか? お前も授業くらいあるだろ」
時刻はおそらく午後四時ごろ。
そろそろ日も沈みかけてきている。
「あ? ああ、気にしなくていいぞ。今日は大したことはやらないからな」
「そうか? ……まぁそういうなら」
本人は大したことがないように言う。
「……そう言えばお前、知ってるか?」
ハーキンは遠くを見つめながらこちらに聞いてきた。
咄嗟のことで反応できなかったが、なんか最近知っとかなきゃいけないことでもあったか?
「知ってるって、何をさ」
「『北の魔女』だよ」
北の魔女……?
「聞いたことないな」
だが、俺は知っている。ライトノベルだとこの後北の魔女と関わることになるんだ。
「北の魔女。昔、世界中で災厄を撒き散らしていたんだが、10年くらい前から突然姿を見せなくなったんだ。そいつが、また最近になって活動を始めたらしい。なんでも広範囲に渡って殺害と放火ができる魔法を使うって話だな」
殺害? そんな魔法もあるのか。
「殺害魔法なんてあるんだな」
「あるにはあるらしい。今じゃ使える人間なんて限られてるけどな。世界で禁止されてる魔法で使ったら最後、捕まれば死ぬより酷い拷問を受けるって噂が流れて、物好き以外は誰も探そうなんてしちゃいないけどな」
まぁ、確かにどっかの人が書いたファンタジー作品ではトムのリドルさんが使ってたけども。やっぱりそういうのはどこでもあるんだな。
「だが、その殺害魔法だって人を一人殺せる魔法だ。広範囲なんて今まで存在しちゃいなかったぞ」
「なんか危険なやつだな……」
「危険なんて生易しいもんじゃない。あれは生きる悪魔だって呼ばれてんぞ」
こわ。そんなやつ相手に出来るやつなんているのかよ。
「どうやら、少し遠くの街も燃やされたらしい。気をつけろよ」
「あぁ。っつっても何に気を付ければいいのかって感じだけどな。で、俺にその情報を教えた理由はなんだ?」
「べっ、別にケーナってやつを心配したわけじゃないんだからな!?」
お、もしやこいつ、ツンデレさんか?
なるほど、だから俺が言語を教えてくれって言っても否定せずすんなり受け入れてくれたわけか。
うん、うん。ツンデレならしょうがないな。
「それじゃあ、今日は助かったよ。また今度頼む」
「俺が負けたから付き合ってんだ。……それじゃあな」
「ゆっくり休めよ」
俺は男子寮に戻っていく背中にねぎらいの言葉をかけ、ケーナちゃんの部屋に戻ることにした。
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