エピローグ
僕の視界いっぱいに広がる星空。
絶え間なく瞬きを続け、飽きもせず尾を引き、流れ落ちる。
僕の目が治ってから、数ヶ月が経った。
季節は、夏を前にして春の陽気を段々と攻撃的なものに変えつつある頃。
この時期の気温は、
暑すぎず、寒すぎない。
今日は非常に天気も良く、絶好の天体観測日和だ。
もはや僕の庭と言っても過言ではない山の上公園で、一人。
望遠鏡のセッティングをする。
正直デブリ次第ではあるが、今日は月と木星の接近が見れるかもしれない。
「またこんなとこで星なんか見てんの?」
徐に後ろから声がかかる。やや粗野な印象の女子の声。バイト女子とはよくここで遭遇するようになった。
「そっちこそ、こんなとこで何してるの。バイトはもうやめたんじゃないの?」
「犬の散歩だし」
そういうと、連れていた豆柴を抱えてこちらに突き出す。
コロコロとした風の体をモキモキしていて可愛い。目がヤバい、無垢すぎてヤバい。
撫で回したくなる気持ちを抑え、再び望遠鏡のセッティングに戻る。
「僕の唯一の趣味なんだから、別にいいだろ」
「ゴミだらけの星空見て楽しいの? 流れ星だって殆どデブリって言ってたよ」
「実際の星が見えない訳じゃないし。それに流れ星流れまくりで、願い事し放題だぞ?」
「だからそれはゴミじゃん」
「でも綺麗じゃない?」
「流れすぎてありがたみないし」
「贅沢だなぁ」
贅沢だなあ。夢もない。より手の届かいない感じが逆にイイ! みたいに思えないのかしら。思えないか。
「……でも、この空眺めてるとさ、なんか感じることあるんだよね」
「……なにを?」
「んーなんだろ。想いみたいな」
もう僕が見ることのできない彼女のブログが、未だにこの星空でたれ流されているかは、わからない。
でも、思わぬ所から現れた彼女の片鱗に驚く。
「ちょ……ちょっと、冗談だって。あんたに引かれるとは思わなかったわ」
「……いや、分かる。分かるよ、ミヤベの気持ち」
不意に名前を呼んだからか、思わず得られた同意からか、一瞬はっとした表情のミヤベと目が合う。
まずは言葉で。そして、視線で。僕は理解を示す。
「……だから、冗談だってのに」
居心地悪そうに僕に背を向けると、ボソボソと聞こえない声で何事か呟きながら、ミヤベは愛犬を撫で回す。
されるがままの豆柴(超かわいい)は、スッとミヤベの手をすり抜け、公園の入口辺りまでトテテと走ると、そこでワンと一度吠えた。
そろそろ行こうぜ! みたいな感じで。
「じゃあ、私行くわ。あんたも早く帰りなよ」
「わかった。星見たら帰るよ」
小走りに豆柴(激マブ)の元に向かう音を聞きながら、再び望遠鏡を覗き込む。
木星がよく見えない……
「クサナギ!」
急に名前を呼ばれ、驚いて振り向く。
「また明日、学校で」
そう言うとミヤベは、普段の表情よりも優しく、そして無邪気に微笑んだ。
了
かみさまのぶろぐ 浅川多分 @aka0629
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