『脱腸 憤慨 革命』
西木 草成
退屈なレポート作りの合間に捧げる
私にとって、それは転機だった。
余命幾ばくもない、王の下した宣言は次の通りであった。
『主文、忠臣アントニウスを次期国王とする』
この言葉を聞き、己は震えていた。歓喜の震えなどではない、そして、それは死を覚悟した王に対する悲劇の震えではない。
これは、喜劇だった。
笑いをこらえるのに必死で必死で、腹の奥底がよじれるを堪えていたのだ。
王は死に、やがてその宣言通りに私が次期王となった。
夢にまで見た席だった、あの愚王が座っていた席を、己の尻で凌辱するたびに腹の奥底が再びよじれるような心地の良い痛みが全身をしびれさせた。
戴冠の儀にて、先日まで自分が首を垂れていた席には、かつての同僚が王となった私を敬うように跪いていた。まず初めに、かつての同僚を皆殺しにした。
理由は単純だ、あいつらが気に食わなかったのだ。
咽び泣きながら、なぜ殺されなければならないのかと、その理由を問うかつての同僚を一瞥しながら静かに手を振り下ろすと、面白いほどに床に敷かれた青い絨毯が赤黒く染まった。
再び腹の奥底がねじれるような痛みを感じた。
国一番の医者が言うには、腹の中に詰まる
そんな日々が、一週間続いたある日。
突如、己の腹がものを喋り出した。
初めは空耳かと思った。しかし、低く唸るような声のようなものは徐々に言葉を紡ぎ出し、そしてそれは己の声にそっくりになった。
腹に中にいるそれは、徐々に己から声を奪って行った。
王の寝室を訪ねるものは、それぞれ指示や命令を聞きにやってくる。だが、それらに対して答えるのは、己の中にいる何かだった。ひどく怒鳴り声で、広い寝室をビリビリと震わせるような声を出すそれは、徐々に寝室を訪ねるものの足を遠ざけて行った。
必死に声を出そうとした。
だが、それが許されることなく腹の中のそれはか細く助けを求める声をかき消すように怒鳴り散らして行った。
王は乱心した、
王は狂った、
王は我を忘れた、
いつしか、そんな噂話が寝室の外から聞こえてくるようになった。いつしか、それは不満を募らせ、国をひっくり返すような革命を起こさせる原因になった。
守りに入った王城の扉を壊し入ってきた民衆を前に、でっぷりと腹をたるませた男が王座に座っていた。
「....なぜ、こんな目に」
『遅かれ早かれ、こうなっていたさ』
初めて、腹の中にいるそれと会話をした。ひどく頭が揺さぶられるような低い声だった。
徐々に迫り来る民衆の槍の先が王座に座るアントニウスの首を狙った。
『なぁ、おい。知ってるか?』
悪魔ってのは、ケツから入るんだぜ?
喉笛が掻き切られるの同時に、そんな言葉を聞いた。
『脱腸 憤慨 革命』 西木 草成 @nisikisousei
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