prologue-雫-

私には両親がいなかった。

孤児院で育った私は、他の子たちとも馴染めず、ずっと独りだった。


小学校、中学校、高校になっても、私は特に友達を作ることもなく過ごしていた。

余暇は勉強と読書に充てた。その分、成績は伸びた。模試で全国一位になったこともある。

そんな噂を聞きつけたのか、ある日孤児院に一人の男がやってきた。

「御宅の九条雫さんを引き取りたいのです」

男は政府の職員だった。

「お嬢さんには今後、翡翠女学院で残りの2年間を過ごしてもらいます」

どうやら私の生活のための全資金を提供する代わりに、翡翠女学院の転校してほしい、ということらしい。

「…それは、一体どういうことでしょうか」

寮母さんが恐る恐る尋ねた。

「翡翠女学院では、他の学校とは全く異なる慣習があります。それが「タレント」というものです」

その学院では、毎年卒業時に優秀な生徒にある儀式を行うらしい。それを受けた生徒は「タレント持ち」として魔法のような特殊能力を使えるようになるという。

「雫さんには是非タレントを受けて欲しいのです。…我々が行っている特殊能力に関する実態調査のサンプルとして」

「それは…そんな、まるで実験動物のようなこと」

寮母さんは口に手を当てて小刻みに震えていた。

「もちろん、相応の報酬をそちらに容易させていただきますし、彼女の生活拠点はこちらが用意します。万が一タレントを授からなかったとしても、ペナルティは生じません。我々の援助は受けられないことになりますが」

私は、この孤児院が資金難であることに気付いている。

「いいですよ」

苦悶の表情の寮母さんをよそに、私はそう答えた。


「今日から翡翠女学院に転校してきた九条雫さんです。みんな仲良くしてあげてね」

転校初日。二十数人の女生徒たちの前でよろしくお願いしますと挨拶をした私は、一番後ろの窓際の席に案内された。

隣の席の女子生徒がこちらを向いて笑った。ちょっとボーイッシュな、「かわいい」というより「かっこいい」という言葉が似合いそうな子だった。

「あたし、萩谷柊っていうんだ。よろしく」

それが、後に「親友」となる柊との出会いだった。


柊には、入学当初からの友人がいた。

それが、神崎詩織だった。

「今年からクラスが別々になっちゃったんだけど、お昼だけはあたしと食べようとするんだよ」

転校初日のお昼休みに柊から紹介された詩織は、柊とは正反対の―いかにもお嬢様チックな生徒だった。

「よろしくね、九条雫さん」

やがて私たち3人は、無二の親友になった。


やがて、卒業の時になった私たちは、校長に聖堂に呼び出された。

「今年の最優秀生徒はあなたたちです」

「タレント」を授かることになったのは、私達3人だった。

聖堂のステンドグラスが、夕日を透過してまるで私達を祝福するように様々な色彩を放っていた。

「私たち、3人…ですか」

戸惑いを隠せないように、詩織は言う。

「そうよ。あなたたちは方向性も性質もばらばらだけれど、3人とも本当に優秀な生徒。わが校の誇りだわ」

そして、厳粛に"儀式"はとり行われた。私たちは「タレント持ち」になったのだ。その証に、私たちの体には六芒星の痣が刻まれた。

「これは、選ばれた者の証。あなたたちはそれぞれの個性に応じたタレントを与えられたのです。社会でそれを上手く生かせるよう祈っております―」

こうして、私達は鳥籠から放たれた。

「また3人で会おうね」詩織は言った。

「ずっと親友のままだからね」柊は言った。

2人と別れた後、ずっと親友という言葉について考えていた。

私が学院に転校した真の目的については、緘口令を敷かれているので2人に決して話してはいけなかった。もちろん、私は話していない。

2人は純粋に親友として接してくれていたのだろう。でも私は―嘘をついている。もちろん2人のことは大切だ。特に詩織は――

「九条」

いつの間にか迎えが来ていた。黒い車から一人の男が出てきた。

「うまくいったのか」

「はい」

私は車に乗り込んだ。






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