「変身ヒロインヤンデルー」 

低迷アクション

第1話

「変身ヒロインヤンデルー」


 「えっ?引退する?」


“ハァっ?”いう文字を体現するように、目と口を大きく開いた、相棒の変身ヒロイン

“リリキュア(確か、正式名称はリリカルキュートとかなんとかだった気がするが思い出せない)”所属の“リリアクア”が、こちらを向いた。その表情に一瞬怖気づく自分だが、


何とか深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。


(大丈夫、この反応も想定内の事。後は手筈通りに…)


ゆっくりと彼女との距離を空けるアクアと同じくリリキュア所属の“リリパッション”こと

“朝顔 里奈(あさがお りな)”は自身のパーソナルカラーであるピンクを主体とした衣装の手袋にギュッと力を込め、なるべく平静さを装い、言葉を続けた。


「ウン、あの私、もう高校生だし、この年で変身ヒロインとか、魔法少女って、あるには

あるけど、流石にキツイかな…?


悪の存在である“ヤミー(リリキュアが担当している敵勢力)”も今回の敵がラスボスみたいだったし、後は次の世代やスーパーヒーロー達に任せるべきだと思う。


だから、今までありがとね。アクア!それじゃ!」


彼女の返事は聞かない。二人が立っているというより、漂っている空間は、先程倒した

最後のヤミーが形成した異次元空間、それも既に崩壊が始まっている。


この崩壊と現実空間の融合時の歪みを利用し、アクアと他のリリキュア達に自分の位置を悟らせないようにして、逃げるのだ。


そう逃げるのだ。彼女達から…


(半年前にこれ言ったら、3日間、闇の中に閉じ込められたもんね…)


思い出しただけで、全身が震える。あの時は、全ての感覚を封じられ、発狂寸前の所で、

アクア達に許しを請い、謝罪と仲間を裏切らった罰として、全ての衣服を剥がされ、生まれたままの姿で、自分より年下の少女達の足元に犬のように這いつくばる事を強制された。

更に彼女達の足一つ一つに口づけと頬ずりを行い、ようやく許しを得たのだ。


あの時の仲間達の視線が忘れられない。最早、何が正義の変身ヒロインか?である。


その思いを糧に自身の変身を説き、恐らく最後になるであろう空間転移を行う。リリキュアは変身に対し、マスコットもデバイスもいらない。人を守るという崇高な理念と強い意思を持った少女に、誰の心にもある“正しい事をしたい”という気持ちが世界中から集まり、

自分達を戦うヒロインへと変えるのだ。


つまり辞めるのは、簡単だ。自分で


「もう変身しない!」


と言う事を選べばいいのだ。アクアの突き刺さる血走った目線をどうにか躱し、覆うように自身を包ませた光の膜の中で目を閉じる。


次に視界を開いた先は自宅からだいぶ離れた隣町の住宅街。万が一の用心だ。

これからゆっくり時間をかけ、家路につく。勿論、背後の確認も忘れない。尾行や


先程のアクアのような突き刺さる視線は感じない。大丈夫だ。ようやくの解放感と少しの

疲れを感じ、大きく伸びをする。


そんな自分をオレンジ色の夕日が照らしてくれた。世界の平和を守り終えたというより、

これで解放、自由になれるという幸福感が強い。共に戦ったリリキュア達には悪いが、この

半年間の仕打ち?悩ましい快楽の強制奉仕を考えれば、迷いはないと確信が持てる。


「よーし!」


元リリキュアのリリパッションこと朝顔里奈は、自身に気合を一つ入れ、

これから始まる、穏やかな日常への回帰としての一歩を元気に踏み出していった…



 最後の戦いから4日が経った。里奈の生活面に特に大きな変化はない。夜中や授業中に

突然感じる“ヤミーの気配”はもうなく、日常全無視の出動もない。


自分より数倍もデカい異形の怪物達が放つおぞましい触手や液体に自らの肢体を汚される事もなく、今ではせいぜい雨に降られるくらいだ。


正義の変身ヒロインとしての活動は基本的に自身の正体を隠すものである。そのため、日常と非日常の両立を否が応でも行わなければいけない事であったが、引退した今は、危惧していた出席日数もどうにかなり、体中を傷だらけにして、両親を心配させる事は無くなった。


また、メディアを通して見られる悪の存在達の活動も沈静化が見られる事も彼女の杞憂を

減少させる素材となっている。


(まぁ、このまま行けば、他のリリキュア達…アクアも普通の女の子に戻るかな?)


自席に座り、ゆったりと考える余裕まで出てきてしまう。元々、現リリキュアの中では

最年長が里奈である。日常の中で感じる異質な空気を人一倍に感じ、初めて、それが

人に害成す事がわかり、その場面に対峙した時、彼女は戦うための力を得る事を選んだ。


リリパッションに変身し、異形の存在ヤミー達と戦い、多くの人達を救ってきた。その中で自分と同じモノを感じ、能力を得て、後に続いてくれたのがリリアクア達だ。


里奈は彼女達の憧れであり、姉として慕われる良きリーダーの立ち位置を務め、いくつもの戦いの日々を過ごしていく。


それが変わったのは、いや、里奈が気づき、アクア達と距離を置くように、少しづつ

フェードアウトしていったのは、半年前だ。


ヤミーの怪獣達と戦うリリキュア達に余裕の姿勢が見え始め、相手を倒すのでなく、いたぶる欲求が強まっている事を確信した。


考えてみれば、まだ体も心も未成熟な年端も行かない少女達…その小さな手が大人より数倍も怖く巨大な怪物達を確実に屠っていく。自分達に痛みはないままの一方的な蹂躙…


そこから得られる異常な興奮と快楽は、少女達には早すぎた。アクア達がリリキュアが複数人で一体のヤミーに襲い掛かり、トドメは刺さずに数十分にわけて、嬲り殺した時、里奈は

吐き気と怖気を同時に感じた。


悪い事にリリキュアとヤミーの本格的戦闘は一般人の目には触れない。敵が形成した異次元空間に乗り込み、戦う。つまり、誰からも非難を受ける事なく、殺戮を行う事が

可能なのだ。空間が崩壊する前にヤミーの返り血を魔法で拭い、笑顔と華やかな衣装で

一般人の前に現れるリリキュア達、そのギャップに里奈は恐怖し、そして諫めようと努めた。


しかし、それは徒労に終わる。もっと早くに気づくべきだった。若い彼女達の力はとっくに

里奈の能力を超えており、彼女達、アクアを筆頭に、自身へ向ける視線が


“憧れ”から“偏愛”に変化していった事に…はじめは戦闘後の簡単なハグだった。年長者として、戦いの注意を与える里奈の口を塞ぐように抱きつくアクアの締め付けが強くなり、


それに電気のような痺れや蝋燭を近づけられたような熱を感じる、里奈に対するイタズラが少女達の間に蔓延していった。


やがて、それは少女達が個々に持つリリキュアの特性を活かしたモノに変わり、それに対する里奈の苦しむ様子や喘ぐ声を楽しむのが慣例となった。半年前の引退宣言以降は、より

凄惨さを増し、ヤミーが形成した空間で、形成主の相手を半殺し状態にしておいて、空間を維持し、一切の介入が出来ない空間内で、抵抗できない里奈の肢体を嬲り、弄ぶ事に終始していく。


まだ、幼いアクア達にとって、自身と言う憧れの対象を思うさまに蹂躙する行為は、容易すぎるヤミー退治に飽き始め、力を持て余す最高の遊びであり、全ての欲求をぶつけるモノとなっていた。


体中に刻み込まれる傷がヤミーによるものでなく、味方のモノだけになった時、彼女は

本格的な引退を決意し、そして今の自由を勝ち得たのだ。


(プライベートを隠しておいて、本当に良かった。でも…)


見事、成功したかに見える変身ヒロイン引退計画の重要な部分であり、一抹の不安を覚えるのはそこだ。自分の正体、普段の素性を話していないが、彼女達の方も自分は知らない。


もしかしたら、同じ学園内にプライベートなアクア達がいるかもしれない。もし、そうだったら…


一瞬、感じた不安をすぐに打ち消す。大丈夫、今の所、自身に接触してくる見知らぬ他人はいない。里奈の学校はエスカレーター式、友人達は皆、幼稚園からの付き合い。何も心配はない。自分は無事、日常に戻れたのだ。世界を守る戦い、役目は終わった。平和も大事だけど、今は自分の平穏を優先したい。これからの戦いは誰かがやればいい。


「里奈、次、移動教室だよー!」


「あ、うん!!」


友人の声に返事を返し、席を立つ。そのまま足を進める自身の全身に痛みが走り、

そのまま床に崩れ落ちる。


何が起きたか、簡単に自覚が出来た。引退し、能力を失ったとは言え、元はリリキュア。

正義の変身ヒロイン…だから、この攻撃は…理解と同時に、こちらに向かってくる軽いステップに足がゆっくりと震えだす。


「う~ん、やっぱり、本人に意識がないと“かまいたち”みたいでつまんないですね?」


「だね~、でも大丈夫、空間形成完了~」


丁寧語と間延びした声に聞き覚えがある。緑と黄色を主体としたデザインの衣装に身を包んだ。元の仲間達“リリクリーン”と“リリシャイニー”がこちらに可愛らしい笑顔をむけている。


「ど、どうして?」


震えながらも、どうにか声を出し、相手が形成した空間の中で、無駄だとわかりつつも、

距離を空けるように、地面にへたりこんだまま、後方に下がっていく。


能力なしの自分とリリキュアの力を持った彼女達では勝敗は見えている。どんな事が

自身の身に起こるかもだ。


「どうしてはこっちの台詞です。パッション~、何で引退したですか?」


「そうだよぉ~、だからねぇ~、皆で探したんたよ~、里奈ちゃん~?」


(もう、名前まで…?)


自身の引き攣り顔に、もう堪らないと言った感じの二人がそれぞれの武器をゆっくり取り出す。思わず手を上げ、命ごいをする敵のような、情けない声を出してしまう。

それが、彼女達を喜ばせるだけだとわかっていても、どうしようもない。


「待って、話を聞いて、お願い…」


「アクアには悪いですけど、先に楽しませてもらいましょう。シャイニー」


「そうだね~、今のパッション…里奈ちゃんは普通の人だから、力抜かないとね~、

死んじゃうかもだね~?」


「や、やめて」


「やめなぁ~い~」


耳に心地よいハーモニーが響き、二人のリリキュアが走り出す。轟音と共に空間の一部が破壊され、緑と赤の物体が彼女達に組み付いたのは、ほぼ同時だった…



 「そのままだ“軍曹”!!“ザリガニーソ”も!」


「OK!“ボーン”!!」


頭上から響く声に気が付き、そのまま抱き上げられる。見上げた先にはドクロのマスクを被った黒づくめの怪人が自分を抱えている。目の前では緑の迷彩で固めた兵隊風の男と、

ザリガニ風の怪人がリリキュア達を抑えている。


「行くぞ、全てを無に!“エンドマター”」


ドクロ怪人が片手を広げ、頭上に翳す。紫色の光が辺りを包み、里奈の視界を一気に

塞ぐ。巨大な爆発と轟音に耳をやられ、次に感覚が戻った時は、

教室から飛び出たドクロの怪人と後に続く二人の怪人(?)達に担がれ、廊下を失踪していた。


「紹介は手短に!吾輩は“カーネルボーン”元暗黒軍団所属の幹部怪人、変身ヒーロー共に

組織をやられて、今は引退の身だ。アンタ等が戦っていたヤミーとは関係がない。」


こちらの視線に気づいたドクロ怪人が自己紹介し、残りの二人も続く。


「俺はザリガニーソ、悪の組織ゾットの元怪人、おたく等とは違う魔法少女にやられて

今は引退の身、最も復帰したがな。強制的に!」


「自分は軍曹。特殊部隊同人出身であります。主に貴方方、魔法少女や変身ヒロイン等の

女の子を攫ったり、技術や衣装を奪う事を目的としていました。自分等は元正義の兵隊軍団に壊滅させられ、現在に至る訳です。」


「つまり、吾輩達は、番組編、いや、正義との戦いにおいて生き残った悪の存在、貴様と同じでな。」


敬礼する軍曹を最後に、ボーンが締めくくる。だが、里奈としては、さっぱり現状と結びつかない。“その悪の組織が一体どうして?”という表情のままだ。


「“何で?”って顔をしているな。結論から言えば、リリキュア達が暴走した。本来なら、

敵を倒して引退する身なのに、アンタが少し早く辞めたために、狂った。アンタを慕い、その姿を追い求めるあまりに、リリキュアの力を放棄せず、行使した。最初は同じ正義の存在に協力を求め、拒否したモノ達を片っ端から始末した。


やがて、正義では探せない事を理解し、吾輩達、悪を襲い始めた。最早、正義の味方ではなく、我々に近い存在になりつつある。そうして貴様の居場所が割れた。」


ボーンの言葉を引き継ぐように軍曹が頭を掻く。


「俺達、同人が利用されました。全てのヒロイン、ヒーローの個人情報を調べ上げてるんで…生き残ったのは自分だけです。」


「とにかく、俺達はボーンに続き、引退したヒーロー、悪の今後を守るために結託した。

目的は一つ、リリキュアを倒す事、アンタを囮にしてな。敵は向こうからやってくる。

後はそれを迎撃するだ…」


「そんなに簡単には行かないよ!」


ザリガニーソの言葉が床から響く声で遮られ、そのままザリガニ怪人の赤い体が赤い閃光で床ごと弾け飛ぶ。里奈が襲撃者の正体を理解する前に、ボーンの腕から自身の体が、

青い鎖によって絡めとられ、窓をぶち破って隣の校舎の壁に磔にされた。


一瞬の出来事に対する混乱と全身に走る痛みはすぐに薄れ、目の前で赤い剣を振り上げ、

ボーン達に襲いかかる“リリソード”と胸部に押し付けられる柔らかい感触…猫のように喉を鳴らし、頬ずりをする“リリアクア”の姿を絶望と共に完全に視認した…



 「やっと見つけた!パッションお姉(おねぇ)!会いたかった!」


「えっと、アクア?まだ4日しか経ってないけ…ひゃぁああ」


「4日もだよ…」


声を低めたアクアが里奈を拘束する腕に力が籠め、思わず声を上げてしまう。ボーン達を

剣で薙ぎ払うソードが、こちらに羨ましそうな視線をチラチラと向けている。これで、全てのリリキュアが揃った。最初に二人は当面の間、戦闘に加わらないにしても、アクアと

ソードの力は桁違いに強い。目の前で奮闘する元悪の二人では敵う筈もない。


(となると、今の私が出来る事は…)


「ねぇっ、アクア。パッションお姉ちゃんからのお願いだよ。離して、お願い…ね?」


本当の妹を諭すように精一杯、声音を柔らかく、優しくしてみた。拘束する力が少し緩まる。

効果アリ?と確認する視線は、目に涙を溜めたアクアの顔を捉えた。


「アクア…」


「嫌だよ…嫌だ、嫌だ!お姉はボク達、リリキュア皆のお姉ちゃん!先に抜けるなんて絶対にダメだよ!例え辞めても、いつまでも傍に居なきゃ嫌だよ!お姉がボクを誘った時に

言ったでしょ?“リリキュアはいつも一緒”って!」


自身の想いを一気に打ち明け、里奈の胸で泣きじゃくるアクアに心が揺れる。

考えてみれば、自分はアクア達の事を何も知らない。どんな両親の元で育ち、何処の学校に通い、何と呼ばれているか、本当の名前さえもだ。、勿論、リリキュアとしてもだ。

自分は彼女達を導く必要があった。彼女達の正義を為すキッカケを作った自分の責任を甘んじていた。だけど…それでも…アクアの背中をそっと撫でる。拘束はいつの間にか

解かれていた。顔を上げた彼女の涙を拭い、言葉を告げた。


「ごめん、許してね、アクア」


静かな拒絶に少女の目が見開かれる。わかっている、わかっているけど、自分は

謝る事しか出来ない。もう、彼女達とは共に歩めない。悪だけではなく、自分にさえ、残酷な一面を見せたアクアと仲間達、心は許しても、体が覚えている。彼女達の姿、匂いや気配を感じるだけで、体が震える、取返しは、決してつかない。


全ては自分の責任だという事だ。でも、もう、解放してほしい。

自身も成人前の少女、これからの将来を優先したい…


(ごめん、アクア、ワガママなお姉ちゃんを許してね…)


手前勝手は承知だ。でもこのままじゃいけない。自分がハッキリとした態度を示さなければいけないのだ。彼女達が取り返しのつかない道を進み終わった後だとしてもだ。


こちらをジッと見つめたアクアがニッコリと微笑み、口を開く。だが、それは里奈の期待する展開ではなかった。


「アクア…?」


「やっぱり、お仕置きだね?お姉」


言葉が終わらない内に、青い鎖が全身を再びの磔にし、無防備となった腹部に、

青い丈長ブーツを纏うアクアの蹴りがめり込む。


四肢を固定され、身を躱す事の出来ない自身の体に数発の蹴りが連続して叩き込まれていく。ただ苦しむしかない里奈は、ただ悲鳴を上げ、頭をガックリと下げ、項垂れる。しかし、それすらも許さないと言った感じのアクアの指が、すぐに彼女の顎を捉え、

強制的に上を向かしていく。


「お願い…もう、許して。」


驚くほど冷たい表情の少女に精一杯の懇願を行う。だが、それが承認されないのは

彼女が浮かべた残忍な笑みで全てを理解する。


「アクア…」


「口先だけの謝罪はもうウンザリだよ?お姉?ちゃんと態度で示さないとね。

うん、そうだね。今回は手足を削ごう。手足が無ければ逃げられないもんね?


それともボク達の言う事を聞くように頭をいじっちゃおうか?知ってるお姉?

ボクの能力、アクアは水、人間の体の7割は水、水を介したモノにはあらゆる

操作が可能なんだよ?


それでね、ボク達にタップリ、反省の気持ちを示したら、リリキュアの力で手足を生やしてあげる。震えてるの?お姉?大丈夫だよ!万が一戻らなくても、一生、ボク達が飼ってあげるからね。それじゃぁ、早速…」


アクアの手が青い光を発するのと、ボーンがソードを抑え込み、その隙に飛び出した軍曹が

手にした手榴弾を投げるのは、ほぼ同時だった。


「ワリいが18禁ネタでも、リョナとかグロは勘弁でありますぜ!青髪お嬢さん!

そして、パッションのねーちん!もう、ここまで来たら、アンタの選択でさぁ!


自由のために戦うと決めたら、答えは一つー?わかってるでしょ~?」


叫びながら地面に落下していく軍曹を目で追う里奈の中にある感情と決意が芽生えていく。

そうだ。自分は無責任だ。だけど、選択した。自由になる事を。そのためにもう一度

力を貸して…静かに目を閉じる自身の体を熱い光が包むイメージが沸き上がってくる。


やがて、そのイメージは現実になり、アクアの拘束が静かに解けていく。こちらを振り向いた彼女の目が驚き、静かに微笑み、呟く。


「やっぱり、その姿が一番だよ。お姉…」


「これが最後の変身、情熱の光は全てを照らし、温める。私はリリパッション。

いくよ!リリアクア!」


変身を終えた里奈、いや、リリパッションは、それを受け入れるように両手を開いた

アクアに向け、一気に距離を詰めた…



 「うん、わかった。気を付けてね。お母さん、お父さんの連絡もよろしく。」


スマホの通話を切り、里奈は自宅のベッドでため息をつく。全ての戦いが終わってから

1週間が経った。元悪の組織であるボーン達は自身にお礼を述べ、もう二度会う事は

ない事を告げ、消えていった。残りのリリキュア達も変身を解き、引退の道を歩んでいる。


あの日、リリパッションとして、自分は勝利し、アクア達を諫め、自由を勝ち取ったのだ。

全ては終わった。だけど、何かが腑に落ちない。元の自分に戻ってから…それは

両親達の出張が増えた事?それとも、今日は二人のために料理を作ったのに、無駄になった事なのか?


いや、そもそも両親は共働きだったのか?何だか、前の生活との微妙な違いを感じている自分がいた。ベッドへ横になろうとする里奈に階下から元気の良い声が聞こえてきた。


妹だ。今年から中学生になったと言うのに、時々、自分とお風呂に入りたがる。今の声は

その催促だろう。いつまで経っても姉離れが出来ない。

まぁ、そこが可愛い所でもあるのだけれど…


かるくため息をつき、里奈はゆっくり立ち上がり、風呂場に向かった…



 「そっか、じゃぁ、友達が今日泊りに来るんだね。3人?ちょうどいいね。

お父さんとお母さんの分まで、ご飯作ったし。」


「うん、お姉ちゃん。ハイハーイ、お背中流しますよー」


背中に暖かい湯がかかり、泡が下を流れていく。しばらくの沈黙が気になり、振り返ろうとする里奈の背中に、妹の柔らかい裸身がピッタリとくっつく。


「ちょっと…」


「お姉ちゃんの背中すべすべ。お胸はふかふか!」


「もう、しょうがないんだから…」


妹の手が自身の胸の前で固く組まれ、そのままギュッと押し付けられ、抱きすくめられる

形となる。何故だろう?特に不快な感じはしない。自分達は仲良しの姉妹だ。それなのに…

それなのに、どうして体が震えるのだろう。


あの戦いは覚えている。だけど、何かを忘れている。自身が変身する前にリリアクアの言った言葉が引っ掛かっている。彼女の能力は水、人間の体の7割は水?その後、あの子は

何と言ったのだろう?


考える里奈の体を抱きしめる腕に力が入り、思考が中断されていく。そのまま首元に舌を這わせる妹がそっと囁いた。


「私達はいつも一緒だよ。お姉…」…(終)




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