第16話 新たな敵

 アユムとズロンの情報交換は短時間で終わった。聖王国攻撃とエルフ・ドワーフを戦わせようとしたことを聞き、ズロンは呆れた声をあげた。


「バカな話だ。自分たちが呼び出した勇者とやらに滅ぼされるとは」

「まだ滅びてはいない。王家の方々の生死は未だ不明だ」


 カーツが反論する。国王や王子、王女の行方はまだわかっていない。彼らの誰かが生きていれば聖王国復興は可能だと彼は思っている。


「生真面目な男だな。貴様の弟子にしては頭が固いぞアユム」

「確かにね。宮仕えですっかり固くなったみたいだよ」


 ズロンの言葉にアユムが頭をかく。騎士団長のカーツにしてみれば、聖王国復興を考えるのは当たり前である。しかし、アユムたちがそれをまったく重視してないのも納得できる。


「で、ズロンのほうは? このありさまは……」

「そのユキヒサめよ。いきなり死人の軍勢を引き連れて攻めてきた。我々魔族も抵抗したが、あの勇者は化け物だった……」

「そうか」


 ズロンが唇をかむ。可愛らしい顔だがそこには口惜しさが満ちていた。


「ユキヒサめは生き残った魔族どもを捕獲して連れていきおった。私は重傷を負っていたところを配下に隠し部屋へ運ばれ……」


 ズロンは悔し気に両手を打ち付ける。カーツはかける言葉が見つからずにアユムのほうを見た。


「連れ去った魔族はおそらくユガと同じく改造されたのかもしれんな」

「聖王国を襲った軍には見たこともない化け物がいました。おそらく……」


 カダーヤの言葉にカーツが答える。トルボはヒゲを撫ぜながら眉をしかめていた。


「死者どもにダークエルフに改造魔族……ユキヒサとやらの軍はかなり強力なようだな。アユム、これは我らの力でもかなり難しい相手だぞ」


 アユムがうなずく。エルフとドワーフを味方にできるとはいえ、相手はあまりにも強大である。カーツの部下が聖王国の残党を集めているがそれでもどこまで戦えるかわからない。


「先生……」

「戦うとなれば苦戦するのはわかってる。だから、準備が大事なんだ。さいわいユキヒサ自身は聖王都から動いていない。その間に準備を整えよう」


 アユムの答えは正論に思えた。相手が動いていない以上、こちらはできるだけ準備するしかない。ここで下手に攻撃しては敗北するのは目に見えている。


「! カーツ様!」


 イェリアが叫ぶ。全員が彼女の指す方向をみあげると、崩れた天井から見える曇天を突っ切って黒い影が接近してくるのが見えた。


「ユガか? まさかユキヒサ?」

「わからんが、戦う用意はしておいたほうがいいな」


 トルボが斧を抜く。カダーヤも周囲に光の槍を出現させ、いつでも撃てるように態勢を整えた。アユムを除いた全員が戦闘態勢をとり、アユムだけはぼーっと空を見上げる。

 黒い影は人型をしていた。急降下して着地した影はゆっくりと立ち上がる。


「おー、ヒーロー着地」

「え?」

「あ、こっちの話だから気にしないで」


 のんきなアユムの言葉にカーツは首をかしげる。そして、立ち上がった影に頬を引き締めた。

 影は漆黒の甲冑を着た巨漢であった。全身を覆った鎧のために顔さえ見えない。仮面の奥に赤く光が見えるが感情というものが感じ取れなかった。

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勇者×勇者 他人の世界を終わらせるチートたち 浪漫贋作 @suzumochi

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