第15話 大魔王との戦い
ズロンの両手から閃光が放たれる。すぐさまカダーヤが光の槍で迎撃するが、閃光が易々と光の槍を飲み込み、アユムのいた場所を吹き飛ばす。
「くっ!」
跳躍して爆風を避けたアユムに火球が飛ぶ。トルボが跳躍して斧で両断するものの、斬られた火球が爆発してトルボを壁面に叩きつけた。
「先生!」
カーツも剣を抜く。すぐさま氷の魔法を剣に込めて飛翔魔法でズロンに斬りかかった。ズロンはマントの間から小さな手を出し、剣をその爪で受け止める。
「魔族の爪の強度を甘く見ないことだ。それも大魔王である私の爪ならば斬りかかった剣のほうが傷つくぞ」
「くそっ!」
魔法で強化しているので剣に傷はない。だが、その手ごたえを思い出し、カーツは背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
大魔王の名は伊達ではない。カダーヤの魔法をやぶり、カーツの攻撃を簡単にいなしてしまった。距離を取ろうとするカーツだが、一瞬でズロンが距離を詰めてくる。
「早い!」
繰り出される爪をかわしつつ、牽制の魔法を放つ。大魔王に比べれば非力だが足止めになると判断したのだ。
「!」
だが、カーツの魔法はズロンの魔力光に触れると消滅していく。その現象を見ながら驚くヒマもなく、ズロンの爪がカーツの眼前に迫る。
「カーツ!」
横合いから閃光が両者を分断する。下を見るとアユムが魔法を使ったことがわかった。
「ズロン! 事情があるんだ! 説明させてくれ!」
「私もそう言った! だが、貴様らは!」
ズロンがアユムへ目標を変える。マントをはためかせて一直線にアユムへ突進したズロンは、両手の爪に魔力を込めて斬りかかった。
「先生!」
ズロンの横なぎを鞘のままの剣ではじき、バックステップで追撃をかわす。さらに前進しようとするズロンの眼前に鞘を突き出して動きを止めると、アユムは鞘を半回転させて肩口を痛撃する。
「やめてくれズロン!」
「だっ、ま、れ……」
肩を抑えて一瞬ひるむズロンだが、すぐに魔力を両手に集中させる。次の瞬間、すべての爪から炎を鎖を放った。
「ちょっ! うわっ!」
10本の炎鎖が拡散し、死角からアユムを襲う。横に飛んでかわすものの、鎖は意思を持つかのようにアユムを追っていった。
「アユム!」
カダーヤが光の槍を放つが動きが早すぎて鎖を破壊することができない。イェリアが駆けだしてアユムと鎖の間に割り込む。
「イェリア!」
「これなら!」
神鏡を構えて鎖に備えるイェリア。しかし、鎖は動きを変えるとイェリアを避けてアユムを追う。
「おのれズロン!」
トルボがズロンに斬りかかる。するとズロンは爪をかすかに動かし、鎖のうち1本をトルボに差し向けた。
炎の鎖がトルボを襲う。すぐに斧をつかって薙ぎ払おうとするが、魔力で作られた炎であるゆえにうまく払うことができない。
「火炎魔法に追尾と捕縛を組み合わせたのか。それを10本同時とは、大魔王だけあってすごい魔法を使うね」
「いつまで余裕を見せている!」
ズロンが叫ぶ。アユムは仕方ないといった顔で鞘から剣を抜こうとするが、何かを思いついたようでまた剣を戻した。
「……よし、いける」
「先生!」
カーツらが見守る中、アユムは炎の鎖の直撃を受ける。誰もが彼のケガを予想したが、アユムは驚くべき行為をやってのけていた。
「なんだと?」
アユムの両手は青白く魔力光を放っていた。彼は魔力で手を保護すると、飛来する鎖すべてをつかみ取ってしまったのだ。
このアユムの動きに一同が唖然とする。カダーヤの槍でさえとらえきれなかった鎖を易々とつかみとってしまったのだ。それも9本をほぼ同時にである。
「ズロン、ちょっと我慢してくれよ!」
「なっ! しまっ」
アユムが鎖を思いきり引く。魔法解除の遅れたズロンの体が鎖にひっぱられてバランスを崩す。その瞬間を逃さずアユムは剣の鞘でズロンの頭部を思いきり叩いた。
「!」
一撃で意識を絶たれたズロンが床に倒れ伏す。その時にフードがめくれ、彼の顔が露になる。
「え?」
ズロンの顔を見てカーツとイェリアが間抜けな声をあげる。ズロンはポカンと口を開けて、白目をむいて気絶していた。
「かわいい……」
イェリアが思わず声に出してしまう。丸い瞳にふわふわの毛並みを持ち、小さな前歯がチャームポイントなっているズロンの顔は愛らしいとしか形容できない小動物的な魅力に満ちていた。
「え? 大魔王?」
「そうじゃ。あれが大魔王ズロン。魔族の頂点に立つ魔王の中の魔王」
カダーヤを見ながらカーツはパクパクと口を動かす。
先ほどまでの戦いを見ていなければ思わずペットにしたくなるほどの可愛さである。アユムがズロンに歩みよりす、引き起こして意識を回復させる。
「くっ……」
「キミの欠点は行動的すぎるところだよ。まず話を聞いてくれ」
頭をかきながらズロンが立ち上がる。不満げにアユムを見上げるが、何も言わずに近くの階段に腰を下ろした。
「さっさと言え。終わったら内容によっては再戦だ」
「ありがとう。手短に言うね」
ズロンが小さな手を胸元で組む。アユムは微笑みを崩さずに説明を開始した。
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