第14話 廃城にて
火山地帯へ行く道を騎馬の一隊が進んでいる。
先頭を進むのは馬に乗ったカーツ、それにアユムとカダーヤ、イェリアが続き、最後尾にトルボがついていた。他には供もなく、少人数の旅行きである。
カーツの配下は聖王国の残党を集めるために各地に散っている。カダーヤは長老たちの引き留めを完全に無視してアユムについていくことを宣言していた。
一番厄介だったのはトルボである。カダーヤへの対抗心からアユムへの動向を申し出ており、家臣が引き止めると長男へ王位を譲ると騒ぎ出した。何とか長男を代王として置くことで決着し、トルボは供を連れずにアユムと一緒に旅立ったのである。
「トルボはいつまでたってもガキじゃな」
「言っておれ。お前だけではアユムが苦労するではないか」
「……どっちもついて来なくていいのに」
大声で口論するカダーヤとトルボにアユムが小さな声で愚痴を言う。カダーヤがすぐににらみつけるが、アユムはそっぽを向いて知らん顔をする。
「大魔王はどこにいたんですか?」
「火山地帯の奥まったところに城を構えておった。上がったり下がったりめんどくさかったの」
「そうそう、途中で穴に岩をハメる床とかあったの」
イェリアの質問にカダーヤとトルボが次々と説明する。この2人は絶対に仲がいいとカーツは確信していた。
「大魔王はやはりかなり強いのですか?」
馬の速度を落としてアユムの横についたカーツは、大魔王のことを聞いてみた。
「魔族の王だけあって魔力はすごいよ。聖王国の魔道士じゃちょっと対抗できないし、カダーヤでも苦戦するかもしれない。ボクだって油断すれば負けかねない」
裏を返せば油断しなければ負けないということである。他の人間ならただの自信過剰だが、アユムの実力を知っているカーツは妙に納得してしまった。
「あのダークエルフみたいに強化されてたら厄介ですね」
「そうだね。カーツががんばって倒してね」
「へ?」
カーツが目を見開く。アユムはゆったりと手綱を動かし、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「言ったはずだよ。ボクはユキヒサとの戦いには手を貸さないって」
「じゃ、じゃあ……」
思い返すと前の戦いでもユガとは戦わなかった。あくまでもサポートとしてカーツと行動するというのがアユムの考えらしい。
「この旅でボクの技術をできるだけカーツに教える。ユキヒサに勝てるかはキミに次第だがいい勝負ができるレベルには引き上げる」
「先生……」
熱いものがカーツの目にこみあげる。その顔を見られたくなかった彼は、無意識に馬の速度をあげた。
※
「ひどいな……」
アユムは廃墟と化した大魔王城の門をくぐった。カーツは剣の柄に手を当てながら、周囲の気配を探る。
火山地帯に入った一行は、まっすぐに大魔王城へと向かった。荒野をまっすぐ突っ切るルートをとったのだが、魔族と1匹たりとも出会うことはなかった。
そして辿り着いた大魔王城はかつての威容を偲ばせるものの各所が破壊され、巨大な廃墟と化していた。城壁の焦げ具合や穿たれた穴を見れば、かなり激しい戦闘があったのがわかる。
「ここらへんで爆発があったみたいだな」
足でガレキをどけながらトルボが分析する。背中にかついでいた武骨な大斧を持ち、周囲を見回しながら城内の様子にため息をついた。
「壁や床の状態からかなりの高熱になったのはわかるが……誰の仕業なのかはわからんな」
カダーヤが黒焦げの像を触ると像の首がゴロリと落ちる。イェリアも神鏡の盾をかまえつつ、恐る恐る彼女の後ろについていった。
「派手に戦ったみたいだね。あちこちにあるシミは恐らく……」
「私の同胞だ」
「!」
2階へ続く大階段から声がした。全員が見上げるとフードをかぶった小柄な人物が空中に浮いている。
「ズロンか」
「久しぶりだな勇者よ。10年になるか」
フードは浮遊したままアユムへと接近していく。カダーヤは両手に魔力を込め、トルボは斧を構える。2人の臨戦態勢を見たカーツとイェリアもそれぞれ構えをとった。
「このような廃城に用などあるまい。それとも何か忘れ物でもあったか?」
ズロンと呼ばれたフードの人物は皮肉たっぷりに聞いてくる。その言葉にアユムは眉をひそめることしかできなかった。
「何があったのじゃ」
「見ての通りだエルフの女王。我らの城に人間の軍が攻め込み、我らが敗れたまでのこと」
ズロンはゆっくりと着地する。背の高さはカーツのモモにも届かないほどである。まるで子供のような大きさだが、その全身にみなぎる魔力はカーツの背筋を寒くさせるに十分だった。
「おう、そこの騎士は見覚えがあるな。水晶視でゼーラとの戦いを見ておったからな」
「そうか、ゼーラが大魔王だったのか。確か、最後に生き残っていた魔王だったね」
「そして、私の弟だ」
「……」
ズロンが静かに言うのを聞いて、アユムはまた沈黙する。カーツはたまらず口を開いた。
「そのゼーラが聖王国を攻撃したから戦闘になったんじゃないか。一方的に攻撃したわけじゃないだろ」
カーツの言葉にフードの奥がキラリと光った。おそらくズロンの眼光であろう。その光にカーツは憎悪や怒り以外の感情が見えた気がした。
「……そうか、そういうことになってるんだな。つくづく貴様らは……」
「話してくれないかズロン。ボクらは聖王国や新しい勇者とは関りがない」
そういってズロンにアユムが手を伸ばす。すると、ズロンは驚くべきすばやさで距離を取り、空中へと飛び上がった。
「ゼーラと戦った聖王国の騎士を連れてきてよくも言えたものだな! 貴様の口車に乗った私が愚かだったというわけよ。だがな! 魔族にも弔い合戦という風習はあるのだぞ」
「やめろズロン!」
アユムが叫びもむなしく、ズロンの全身に青い魔力の光が生み出される。カーツもイェリアも覚悟を決め、人生はじめての大魔王との戦いを開始した。
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