第13話 大魔王

 大魔王。15年ほど前に大陸全土を戦火に包んだ人物である。魔族の大軍を率いて聖王国をはじめエルフ、ドワーフを侵略し、幼い頃のカーツも戦火に巻き込まれて山間へ何度も避難したことがある。

 この世界に転生したアユムが勇者となったのはこの戦いである。約2年に渡った大魔王との戦いの果てに魔族は南の火山地帯に封印され、ユキヒサが召喚されるまで大きな戦いはなかった。


「あの時に私もトルボも初めてアユムと知り合ったんだよな」


 カダーヤの言葉にトルボがうなずく。


「魔族の王だけあって大魔王はトンデモなく強かった。ボクの魔法剣は彼と戦うために磨いたものだ」


 アユムの魔法剣はこの世界にあった魔法剣とは一線を画す。魔力伝導率の高い武器に魔力を込めて威力を強化するだけの従来の魔法剣ではなく、魔法そのものを武器にかけることでさまざまな能力を発揮する。


「でも、大魔王はユキヒサとオレたちが……」

「そうだ。封印していたはずの大魔王と戦ってる」

「別人ということですか?」


 カーツは混乱していた。1年前に戦った魔族は確かに本物だった。


「どんなヤツだったんじゃ?」


 カダーヤの言葉にカーツが答える。


「え? 黒い翼で真っ赤な目の……」

「……違うな」


 腕組みしたままトルボがつぶやく。アユムも口元を指で隠しつつ、うなずいた。


「おそらく上位魔族の誰かだろうね。大魔王は拍子抜けするほど小柄だったから」

「そんな……」

「まあ、名乗るだけだったらヤー様もアユムも大魔王を名乗れるからな」


 驚くべき話だが、大魔王と戦った当事者が言うのであるから信じるしかない。


「でも、なんで封印されてた大魔王を名乗っていたんでしょうか?」

「わからんがな。ワシはいやーな予感がしておる」

「ドワーフにしては頭が回るではないか。ヤー様もいやーな予感がしておる」

「ボクもだよ」


 3人の顔がこわばっている。カーツとイェリアはじっと次の言葉を待った。


「ワシは聖王国が火山地帯に仕掛けたのではないかと思っておる」

「そんな!」


 叫んではみたものの予想されていた答えだった。信じたくはないがありえない話ではない。


「火山地帯は鉱脈も豊富だからな。狙うのはわかるが……」

「まあ、人間のやることじゃからな」


 トルボの感想にカダーヤが当然のように言う。反論したいが、やりかねないとカーツも思っていた。


「最悪の考えだが、火山地帯を手に入れるために大魔王の侵攻を装った可能性もあるな」

「いや、さすがにそこまでは」


 カーツの意見に誰も同意はしない。似た境遇のイェリアでさえ積極的に支持できないといった顔である。


「行って見るしかないか」


 アユムがつぶやく。あまり乗り気ではない顔だった。カーツは彼がユキヒサの戦いに関わりたがらなかった理由が何となくわかったような気がした。

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