第14話 ヨクアルソレカラノ話 ―後日譚―
千子の右腕の肩口より下の付け根には、継ぎ目の古傷が残り。
それでも指が少しづつでも動き、リハビリの目処が立ったなら、
「これでお兄以外、お嫁の貰い手になんていないね」
と病室に見舞いにいった由比の前でほくそ笑んでいたという。
「さらっととんでもないこと抜かしてたわよあの子」
「ははっ……」
村正は千子が実の妹でよかったといつも思っている。
それはたとえ憎まれたとしても、変わらなかった。
「俺は由比さん一筋だから」
「ひどいお兄さん」
「え?」
「千子ちゃんの気持ち、わかっていないわけじゃないんでしょう?」
「由比さんこそ相変わらず意地悪ですよね、そういうところもまたたまらなくかわいいんですけど、正直たまにきついです」
「きみも私に慣れて、言うこと容赦がなくなってきたよね……」
最強の個体をあっさりと斃したあれからも、狸狩りは依然として続いているが、殲滅のためにカントー圏を忙しく奔走する日々は充実していた。
命を根絶やしにしようとは業の深い話だが、村正は大義さえあればあっさりとそれに恭順できる側の人間だったようだ。
だが戦いそのものは無論忌まわしく、いずれこの日々には遠くない終わりが訪れるだろうことも知っている。
そうなってからの先も、きっと戦いのなかでできた大切なひとびとを愛して村正は生きていく。
(人間は、自分の愛したものしか守れない、でも)
いつかの鋳造の狸への歪んだ愛慕のような感情は、自分にもあってでもそれすら受け容れて生きていく、それはあながち間違っていないことなんだと村正は納得して、きっと生きていく。
(きっと、それでいいんだ)
「由比さん」
「うん?」
「ありがとう、……傍にいてくれて」
ひとまず傍らに寄り添ってくれる彼女に礼を述べることから、少年は始めることにした。
完
八装縁起 タヌキヲン ~滅した狸の皮算用~ 手嶋柊。/nanigashira @nanigashi
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