第13話 家康ヲ墜トス

 晴れ渡った旧都の空へ、家康諸共岩のような右の拳を突き上げて、左は取っ手を握り、やつの魂を封じようといま、踏ん張ってやたらと固いその蓋をこじ開けようとしている。


「スルガへ帰りたいか!!!

 残念だったな!!!

 俺がお前に与えてやるのは安息なんかじゃない!!!!!

 お前はその魂をもってうちの妹とその他諸々喰らった人間に詫びを入れてこいクソダヌキっ!!!」

「いい啖呵だ!!!!!

 流石千子、お前の兄だけあってとんでもなく肝が据わっておる!!!!!!!」

「「黙れっ!!!!!」」


 犬飼兄妹は揃ってクソダヌキを罵倒する。


「――あんたは今日ここで終わるの!!!」

「だからてめぇは“残基”諸共消し炭だっ!!!」

「なんと、気づいていたのか!」


 狸は顔を初めて曇らせた。


「魂はいずれ潰えても、信仰を集め神となったものは封じるしかない。

 だから――!!!」


 岩の剛腕はその拳で最強の狸を焼き尽くしていく。

 断末魔とともに、炎のなかでふたつの白い光が可視化される。


「あれは――なに?」

「首魁となって同化した狸自身と家康の怨霊とだ、どちらもいま封じなければ、あとの狸に憑依されていずれ同じことが続いてしまう」

「まさにクソダヌキね!!!」

「知ってたさ、嫌というほどにな。

 そしてこちらの用意も整った」

「用意――これって!!?」


 千子たちの見るモニターには、紅く明滅する文字が躍る。




 ―――――――――――――――――――― code : orizinate-TANUKI




「ああ、道祖神で神力を蓄えきったそのときに真の姿は解放される。

 ――タヌキヲンオリジン 神威だ」

「しょうーもな」

『あんまり正直に言わないでくれ、私の命名がおかしいみたいじゃないか』


 千子の継ぎものの腕、あれに囲われていたあいだ、通信は遮断されていたが、復旧しているようで、鋳造の声がする。


「いや、おかしいだろ、そも信楽焼でロボってその時点からして。

 まさかかっこいいとか思ってるのこのひと……うっわ?」


 千子は容赦がなかった。

 ところでそろそろ焼き上がった狸とそれを岩の腕で弾き上げるタヌキヲンは、氷結していく。


「まずい、このままじゃ軌道上に肉片ぶちあげるだけになる。

 さっさと終わらせよう」

『それと少女、きみに言っとくが』

「え?」

『ふたつの魂を封じるには、またこちらにもふたつの魂の負担が要りようだ。

 わざわざきみに席を譲ってくれたヒロインに感謝してやったほうがいいぞ』

「それって」

『村正くんはきみなら一緒に完遂してくれると、信じて疑ってもいない。

 とんだ大馬鹿だ』

「もう喋ってる時間も惜しい、それとやや肌寒いぞ!」


 やがて上空へ突き抜けていくタヌキオンは、左腕で茶釜の蓋を解放する。

 それは狸と同化した魂を吸おうとやがて風を興している。

 タヌキヲンレベル2――いやもはや金色に輝くタヌキヲン オリジンの装甲は、神々しく、狸に最期の裁きを与えようと、その力でもって、狸の魂を岩の腕でまさぐり、確かに“掴んで”、左手の蓋はぼろぼろの灰になった肉片ごと、茶釜にふたつを封じ込め――、始末を終えると、それを封じた茶釜でやがてタヌキヲンは空を滑っている。

 そうすべてが、終わったのだ。


「帰ろう、千子。

 そしたらお前の新しい――お姉ちゃんを紹介してやる」

「……、やだ」

「?」

「お兄はわたしだけのものなんだから」


 千子は不満げに頬をぷっくり膨らませる。

 村正は波に乗るようなこの感覚をもっと楽しんではいたかったが、またも無線が途切れている、さっさと戻らなければあのふたりを心配させてしまうだろう。

 やがて青空から降りていくと、いつものカントーの灰色の街へと、ふたりは出迎えられる――。

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