十人目 運命の針は止まらない

「…九つの悪魔の力が必要になる?何を言って…」

細い目を見開いてヒバナは問う。九つの悪魔の力についての文献などない、そして本人達からも何も情報は得られなかった。しかし何故こいつが知っている?

「彼らが九つの悪魔と呼ばれたのは、大昔のある戦争からそう呼ばれている。その戦争を始めたのが、彼らだったから。そして、人間の世界各地の人間に取り付いて大罪を起こさせた…」

人間世界にも勿論人間同士の戦いは起こる。しかしそれらの鍵を握っているのは大体が九つの悪魔だと云うのだ。

「ある残虐な連続殺人、その事件は1000年ほど昔だけど、未だに未解決だそうだ…」

無表情のまま死神が述べる。

「まさか……九つの悪魔が関係している…」

「その通り、これは私の推測にすぎない。しかしあれほど警戒していたのに皆殺されてしまったんだよ。それなのに逃げおおせた、不自然だと思わないかい?」

不気味に笑う死神にいよいよ寒気がしてきた。彼のその目は…。あいつじゃない、目の前の死神は…偽物だ。

「お前…誰なんだ…?いきなり九つの悪魔の話をしだして、お前が死神じゃないことぐらい分かってんだ」

バッと後ろに飛び退いたヒバナに死神は壊れたように笑い始めた。

「あはははははっ、ようやく気付くものが現れたね。戦争を起こして、簡単に死んでいく人間を見るのは、実に楽しい…」

血の付いた大鎌をブンッと振る。床には真っ赤な液体が飛び散る。鮮やかに、花のようにそこに佇む血は赤い月の光を反射して美しく光っていた。


カターン


ヒバナの持っていたランプが落ちる。その足下にはじわじわと広がる血溜りが。わき腹を引き裂かれ、立っているのがやっとの状態のようだった。

「お前、仲の良い人間がいるそうじゃぁないか。」

倒れそうなヒバナの耳もとに、そっと囁く。はっ、としたように目を見開くが、その目に生気は感じられない。

「愛人か?人間を愛してなにがある、何故愛す?必要なのは魔物と九つの悪魔だけだ。」

ふふっ、と小さく笑い声が響く。苦しそうに息をする彼はあまりにも美しい、優しい顔で呟く。

「何故かって…?お前みたいな可哀想な奴等のために教えてやるよ…」

その瞬間パッと死神に向かって飛び、喉元に爪を突き立てる。

「人を愛していりゃ、強くなれるんだ。愛することにわざわざ理由をつける馬鹿はいねぇよ。」

ドサッと人形のように崩れ落ちる。


ドロリ……死神の死体が床に沈んでいく。それと入れ替わりに本物の死神が現れる。

「流石、低級悪魔なんぞには殺られるわけないよな…」

その服は死体とはうってかわり、赤い鮮血などついてはいなかった。

「ごめんよヒバナ、戦争を起こすまでは本物の私だったさ……」

くるりと回りヒバナの体を持ち上げる。

「もうすぐ奴が生き返る…止まっていた針は動き出す」

カツンカツンと歩く音が響く。その音に交り時計塔の針が、再び動き出した。


運命の針は止まらない…それは魔王にも、死神にも、誰にも……

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死神に救われた子供たち 志貴野 凛音 @nekota-kurona1

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