何故勇者が冒険開始時に端金しか貰えないのか納得できる王様の説明を考えてみた

バートレット

ある王国にて、勇者旅立ちの日に

 よくぞ来た勇者よ。父君のことは残念じゃった。立派に戦ったと聞いておる。その志を継ごうとするその思い、しかと受け取った。

 さて、本題に入る前に現在の状況を簡単に説明しておこう。


 一言で言うと芳しくない。

 魔王は日に日にその力を増しており、すでに我が領地にも被害が出始めた。

 これ以上の暴虐を許すことはまかりならん。

 しかし我が国の軍を動かすことは難しい。そも、根本的な解決として下策中の下策じゃ。我が軍は精兵揃いではあるが、知っての通り彼我の戦力差は絶望的と言わざるを得んのでな。正面から宣戦布告を通達したところで、質・量ともに潤沢な魔王の兵力に我が軍が叩き潰されるは必定。

 かと言って、ただ手をこまねいたまま魔王にされるがままというのも、国家を預かる身として到底承服できん。国民も何か手を打たぬ限り納得せんじゃろう。

 そこで、ごく少数の戦力を敵本拠地である魔王城に送り込み、指揮官である魔王を直接叩くというのが、今回そなたに与える任務じゃ。


 では、任務の詳細を説明する。

 そなたは王都出立後、魔王の手が伸びている各地の戦力に対して打撃を与え陽動を仕掛けつつ、魔王城への侵入経路を探るのじゃ。

 事前の陽動、及び各地域の防衛・解放により、魔王側の統制を乱すことができるであろう。然る後に侵入経路が見つかり次第、そなたたちは魔王城に乗り込み、少数の戦力で持って魔王を暗殺せよ。これが任務の概要じゃ。


 この任務はわしが国王として正式に与えるものではないし、政府が認めた正規の作戦にも非ず。言わば非公式の任務じゃ。

 よって、我が国が表立って支援をすることは不可能となる。装備も物資も現地調達が基本じゃ。この任務は公式には国家予算にも計上しない。支度金は支給可能だが、非公式予算から捻出したものだ。額は当てにせんでくれ。

 まぁこれは仮定の話じゃが、もしもそなたがこの城の地下にある、重罪人や脱税者から差し押さえた物品の保管場所に何らかの手段で潜入し、なおかつ衛兵に見つかることもなく、それらを自主的に回収し使用したところで、わしら政府にはそれが盗品かどうかの追求ができんからな。あるいはどこかで合法的に調達したものかもしれぬから、わしにはなんとも言えぬし感知もすまいよ。


 ただこれだけは言える。魔王に対しては誰かが然るべき手を打たねばならぬ。そのためにそなたを呼び寄せたのじゃ。それをゆめゆめ忘れるでないぞ。


 では勇者よ、ゆくが良い。そなたの健闘を祈る。

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