進路指導室にて。
高校三年の夏休み前。
わたしは両親とともに、学校で進路について話合っている。
目の前には担任と進路指導担当教諭と校長が渋い顔をして座っている。
「
担任が少しイラ付いた声で、目を細めている。
「はい!! わたしは進学しません。就職します。公務員試験を受けます。卒業したら公務員になります!!」
担任へ元気よく、笑顔で返した。
「我が校の生徒は創立以来進学することになっております!!」
校長が立ち上がり、顔を真っ赤にしながら素っ頓狂な声を張り上げる。
誰が決めた?そんなの法律で決まってるんかいな?
わたしは校長の必死な形相に笑いを堪えて、
「高卒で就職することが、そんなに悪いことなんですか?」
笑顔を崩さずに聞いてやると、
「我が校の生徒の進学率は100パーセント!!全国第一位を誇っておる!!これをあなた一人のために崩す訳にはいかんのや!!」
全身の毛を逆立てる勢いで、わたしに唾を飛ばして来た。
このおじん、めっちゃ汚いなぁ。
手の甲についたそれをハンカチで拭いて、また笑顔で見つめてやる。
「校長先生、そない興奮せんでくださいな」
わたしの右側で黙っていた父が静かに口を開いて校長を見上げる。
「私たちは娘のたった一回きりの人生を好きにさせたいのです」
わたしの左側に座っている母も微笑みながら校長に言う。
「娘の人生を、希望をあなた方のためにねじ曲げるのはおかしい思うんは私も妻も同意見ですが、いかがでしょうか?」
父も立ち上がり、校長たちを見下げる。
余談だけど、父は身長が二メートル五センチだ。
途端に「お父さん、ちょっと落ち着いてください・・・」
進路指導担当教諭が顔を真っ青にして父と校長の間に入って来た。
「私は至って冷静です。興奮されてるんは校長先生とちゃいますのん?」
父がくわっと眼を見開くのが解る。
「お父さん、座って。るりちゃんの進路について話しを戻しましょう」
母が父の前へ行き、両手を触って座るように促す。
「お母さん、解った。大丈夫や」
父は座ったけど、眼力は緩ませずに校長を見ている。
「あの、その、それでは、その、上小沢さんは進学はしなくて、就職すると言うことで・・・」
父の迫力に怖気付いたのか、担任は早くこの場を終わらせようとしている。
校長と進路指導担当教諭はすっかり下を向いてしまっている。
「夏休み中に公務員試験がありますので、受験して来ます」
わたしは立ち上がって、三人に一礼をすると、両親も立ち上がって
「では、失礼致します」
父が言い、母も礼をして、進路指導室を出た。
校門を出たところで、父がわたしの肩を抱いて、
「るりよ、さっきも言うたけど、お前の人生なんやから、好きにしたらええ。お父さんもお母さんもずっと、死んだかてお前の味方や。それに、公務員なった方が安定しとる。ワシみたいな自営業は景気に左右されるさかいな」
きつい表情を緩めて、わたしの頭を撫でてくれる。
「お母さんかて高卒やし、私はまともに就職せんとお父さんと結婚したんやし、るりちゃんが好きなことするんは絶対反対せぇへんよ」
母もわたしの髪の毛を触って笑う。
「ほな、るりよ、センセらに言うたからには絶対公務員ならなアカンぞ」
「お父さんもお母さんもるりちゃんを応援するからね」
「解った!!うちは絶対公務員なる!!」
父と母の言葉に、わたしは力強く言って、「お父さんもお母さんも大好き!!」と、抱きついた。
「お父さん、年甲斐も無く興奮したから、腹減ったわ」
「お父さん、うち、オムライス食べたい!!」
「もう、この子は・・・」
母が笑う。
「よっしゃ、行こう」
父がわたしの手を引いて歩き出す。
母は一歩下がりつつ、わたしたちの後ろにつく。
こうして、わたしの進路指導は終わり、晴れて、公務員試験を受けることが決まった。
おっさんを手のひらで転がす方法 松本優華 @jajueka
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