落ち葉拾い

雨世界

1 僕は君と出会った。

 落ち葉拾い


 プロローグ


 僕は君と出会った。


 本編


 秋の恋。


 小瀧源次郎が秋宮志帆と出会ったのは、紅葉の美しい秋の季節のことだった。

 二人の出会いは秋の色に色づく山の参道だった。

 山登りにやってきた源次郎は、そこで、その山の巫女である、秋宮神社の巫女、秋宮志帆と偶然出会った。

「こんにちは」

 先に声をかけたのは、志帆のほうからだった。

 源次郎は巫女服姿の志帆を見て、思わずその美しさに見とれてしまった。秋の落ち葉に埋め尽くされた神社の参道を竹ぼうきをもって掃除をしている志帆は、本当に、本当に美しかった。

 まるで、本物の山の神様のようだった。(それくらい、彼女は美しかった)

 

「こんにちは」

 少し間を置いてから、源次郎は言った。

 すると志帆は、参道の掃除をやめて、源次郎の立っている場所までやってきた。そこは秋宮神社の入り口にあたる赤い大きな鳥居のある場所だった。

 その赤い大きな鳥居を境にして、源次郎と志帆はお互いの顔を見ながら、その場所に立っていた。

 なにを話すわけでもなく、ただ、じっとお互いの顔を見つめていた。

 源次郎は、このままずっと、何時間でも君の顔を見ていられる、と思った。でも、それから数分もしないうちに、源次郎は、「ここは秋宮神社ですか?」と志帆に言った。

 別にこの場所が秋宮神社であるということを、源次郎は知らなかったわけではないのだけど、なにか話をしていないと、源次郎の気持ちが落ち着かなかった。(志帆はそうではないようだったけど。彼女は、その澄み切った湖の水面のような、静かな黒い瞳で、じっと源次郎のことを見つめ続けていた)


「はい。確かにここは秋宮神社ですよ」と志帆は言った。

「そうですか。よかった。一度、見てみたかったんですよ。結構、有名ですよね。この神社」と源次郎は言った。

 志帆は無言。

 源次郎の意味のない言葉に、志帆はなにも言葉を返してくれなかった。(その代わり、じっと志帆は、さっきまでと同じように源次郎の顔をじっと見つめ続けていた)


「あの、僕、なにか変ですか?」源次郎は言う。

「変? 変って、なにがですか?」志帆は言う。

「いや、なにってことはないんですが、その、……あなたがじっと、僕のことをなにか物珍しそうに見ているから、つい、僕のどこかが変なのかな? と思ってしまって」と源次郎は言った。

「いいえ。あなたはどこも変じゃありませんよ」にっこりと笑って志帆は言った。


 それから志帆は「もし、お時間があるようなら、少し山の中を散歩でもしませんか?」と源次郎に言った。

 まだお互いの名前も知らないままだったのだけど、源次郎は思わず、「はい。もしよかったら、ぜひ」と志帆に言った。

 なぜなら源次郎は、もう志帆のことが好きになっていたからだった。

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