ここで一応話はオチました——では続きますね。
またたび
退屈
僕はいつも退屈そうに見えるらしい、まあ事実そうなのだが。
「ねぇ君っていつもつまらなそうな顔するよね、楽しくないの?」
教室の隅の机で突っ伏していた僕に、テリトリーなど気にせずズカズカと侵入しては干渉してきた女が一人。
「ストレートに聞くね」
「まあね、で? つまんないの?」
その質問こそめんどくさくて、嫌になりそうだが、明らかに顔に出てる僕に怖気付くこともなく、平気で話しかけてくる彼女はきっと手強い。これは雑でも返答した方がいい。
「そうかもしれない。退屈だとそこまで思ってるつもりはないんだけど、顔に出てるって言うなら……実は自覚してないだけで退屈なのかも」
「ほぉー」
「まっ、人生って退屈と向き合って生きてくもんでしょ」
「ふむ」
そう言うと彼女はニコッと笑って。
「な、わけないじゃん」
僕の腕をガシッと握った。
「えっ」
「早く立って私についてこい!!」
そこからはあまり覚えてない。ただでさえ体力のない僕を全力で走らせて、緑の中を駆け巡った。間から見える木漏れ日がやけに眩しくて「ああ夏だな」と思ったんだ。
「はあ、はあ……流石にもう疲れたよ」
「君、体力ないのね」
「仕方ないだろ、インドア派なんだ」
「でも」
「?」
「今の君は、とても楽しそう!」
近くのガラスを覗くと、そこにはちょっと嬉しそうな顔をしてる僕がいた。僕でも見たことがない自分におどろきを感じて。
「はは……本当だ」
それからはあっという間だった。
僕は彼女と付き合うことになり、意外にも頭のいい彼女と同じ大学へ行くため、必死に勉強を頑張った。大学を卒業した後はサラリーマンとして努力する日々……あんなに活発で動き回るのが大好きな彼女も、その体に宿した大切な命を守るように、おとなしくなった。やがて子供も生まれ、僕と君はすれ違ったりすることもあったけれど、つらいときは支え合って、楽しいときは一緒に笑って、人生を歩んでいった。そして、可愛かった子供達も立派な大人になり、改めて、二人での暮らしが始まった。
そして。
あっという間だった。ようやく、気づいた。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうこと、そして実に儚いことに。
「……僕より先にいくなんて、ひどい話じゃないか」
いつも引っ張ってくれるのは君だったのに、君がいなくなっちゃ歩く気力なんかなくなっちゃって。
ああ、退屈な日々が始まった。
「またつまんなそうな顔して」
そう言ってくれる君もいない。
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【ここで一応話はオチました——ここで見るのをやめても構いません。これはこれで、一つの終わり方です。ですが、また違ったオチを見たいのなら、ぜひ続きを読んでください。二段オチですから——では続きますね】
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・
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・
「あれ、ここは……?」
綺麗な花畑が前に広がる、そして後ろには透き通ってる川が。どうやら、あれは三途の川のようで、自分はもう死んでしまったようだ。
「なんか、あっけないな」
しばらく歩いてると、誰かが立っていた。霧がかかっていてシルエットしか見えない。
「あっ」
近づくと、ようやくその姿を認識した。
「よっ、久しぶり!」
若い頃の彼女の姿、まんまだった。
「……待っててくれたの?」
「まあね。ていうか! 私がいなくなってからまた君は昔みたいに、退屈そうな顔ばかりして。見ててイライラした! もっと楽しめよ、人生を!!」
「ご、ごめん。やっぱり退屈そうに見えたか……」
まあ事実そうなのだが。
「でもまあ、私も人のこと言えないか」
「えっ?」
「私も君を見てることくらいしかすることがなくて、超退屈だった。やっぱりさ、昔からそうなんだけど、退屈な人を見てるのは退屈なんだよね」
「……」
「だからさ、私は退屈したくなかったから、退屈そうな君にあのとき話しかけたんだ」
「……」
「おかげで人生全く、退屈しなかったよ!! ありがとう!!」
僕は先程から返事が全くできなかった。涙が止まらないからだ。なるほど、僕は君のおかげで退屈しなかったけど、そういうことだったのか……。
「ほら、手、出して?」
彼女は右手を僕に差し伸べる。その光景はあの夏の一瞬をフラッシュバックさせた。
「これからもずっと、私についてきて! 分かった?」
「……ああ、もちろん!」
僕が退屈だったとき、彼女も退屈だったんだ。退屈同士が出会って、退屈を消していった、満足に変えていった。その事実に僕はただ、喜びしか感じなくて。
「二人ならきっとどこでも楽しめるから大丈夫!」
綺麗な花畑を二人で駆け抜けていく。そして彼女は笑って僕にこう言うんだ。
「今の君は、とても楽しそう!」
「はは……本当だ」
ここで一応話はオチました——では続きますね。 またたび @Ryuto52
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