ラッパ

紫 李鳥

ラッパ

 



 皆様がご存じのように、食虫植物には、ウツボカズラを始めとして、ハエトリソウやモウセンゴケなどがございます。


 食虫植物ですから、どの種類の植物も、虫を捕まえるのに適した形に進化しています。例えば、ハエトリソウであれば、葉先にトゲの付いた2枚の葉っぱで、挟み込んで捕まえるような仕組みがございます。


 どの種属も、他の植物と同じように根から養分を吸収したり、花を咲かせたりもしますが、その他に、虫を捕まえて養分を吸収しているのでございます。





 部屋に観葉植物を置きたかった宏子は、虫嫌いも兼ねて、食虫植物を置くことにした。


 宏子が選んだのは、百合のような形をした白い植物だった。


 ラッパの形にも似ていたので、ラッパと名付けた。


 日当たりのいい窓辺に置くと、純白の美しさに見とれながら微笑ほほえんだ。


「ラッパ、これからよろしく。私に悪い虫がつかないように見張ってね。変な虫が来たらガブッと退治してね」


 宏子はラッパに話しかけた。



 宏子には恋人がいたが、最近は会っていなかった。


 留守電に伝言しても、返事は決まって、残業とか、上司の付き合いで飲んでたとか、言い訳ばかりだった。


 宏子は、彼氏に会えない寂しさもあってか、ラッパに悩みを打ち明けたり、愚痴ぐちを溢すようになっていた。


「付き合い始めた頃は毎日のように会ってたわ。でも、彼、主任になってからは、仕事が忙しくなって、あんまり会えなくなったの」


 食後のワインを飲みながら、ラッパに向かって話しかけた。


「仕事だから仕方ないって、分かってるけど、やっぱり会いたいじゃない。彼と一緒にいると安らぐの。……甘えられるし……わがまま言っても……怒らないし……眠い。ラッパ、おやすみ」




 そんな日々が何日か続いた後、ラッパの実力が発揮された。


「毎年、蚊やハエに悩まされていたのに、今年は一度も蚊に刺されてないし、ハエも見てない。ラッパのお陰よ。ありがとう」


 感謝の気持ちを伝えながらラッパの頭をでた。


 その夜も、仕事だと言う彼氏に、酔っ払って電話をした。


「もう、いつ会えるのよ。いくら忙しくても、部屋にちょっと寄るぐらい出来るでしょ? 合鍵持ってるんだから。お詫びのプレゼントを置いておくとかさ」


「ごめんごめん。時間が出来たら必ず行くから、怒らないで」


「ホントよ。待ってるからね。チュッは?」


「……チュッ」




 それは休日だった。


 宏子は、食材を買いにスーパーに出掛けていた。



 宏子を驚かそうと思い、彼氏はプレゼントを手に、合鍵を使って部屋に入った。


 宏子の姿がなかったので、浴室やベランダをのぞいた。


 そして、初めて見るラッパに近寄った。




 買い物から戻った宏子は、彼氏の靴に気付き、名前を呼びながら浴室やベランダを覗いた。


 テーブルには、ピンクのリボンがついた四角い箱があった。


 ふと、ラッパを見ると、何やら黒っぽい物を口にぶら下げていた。よく見ると、








 紳士物の靴下だった。








 ペッ!

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ラッパ 紫 李鳥 @shiritori

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