その8

 俺とおっさんは所轄の市警本部に連れて行かれ、地域課と銃器対策課、果ては暴力団対策室と回らされ、あちこちでぐだぐだと説教を聞かされた。


 やっと解放されたのは、もうすっかり夕方近くになっていた。


『面倒を掛けたな・・・・』


 警察署の建物から出た時、おっさんは俺にぼそりと礼を述べた。

 

『別に、これも仕事だからな』


 そう言ってから、


『ところで、どうするね?俺の依頼人の件 なんだが・・・・』俺は改めておっさんに訊ねた。


 おっさんは立ち止まり、煙草に火をつけ、大きく煙を吸い込んでから、


『あんたにゃ借りがあるからな・・・・まあ、住所くらいは知らせても構わねぇよ』


『分かった。これで貸し借り無しだな』


 俺はそう言い、そのまま手を振ると、くるりと背中を向けて立ち去ろうとしたが、


『ああ、そうだ。また近いうちにカツ丼を食べに寄っても構わないかね?今度は純然たる客としてさ。』


『そりゃ構わんが・・・・しかしあんたも物好きだね。東京からこんな田舎町までたかがカツ丼一杯食べに来ようなんざ』


『いや、それだけの価値がある。そう思ったんだ』


 東京に帰り、俺はハンマー五代がトレーナーをしているジムを訪ね、事の次第を報告した。


 彼は上機嫌だった。


 何でも、自分が見ているボクサーが今度ウェルター級の日本タイトルに挑戦することになったのだという。


『タイトルマッチが終わったら、必ず訪ねてゆくぜ』


 彼は張り切った声でそう答えた。


                                  終わり


*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カツ丼ブルース 冷門 風之助  @yamato2673nippon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ