「赤い血が流れるまで・・・」

低迷アクション

「赤い血が流れるまで・・・」



以下に記すのは、警察に勤める友人が語った、あくまで“飲みの席”での話である…


私が“それ”を自覚したのは小学生の頃だ。近所の道路で、車に轢かれた同じくらいの年頃の少年の事後現場を見た。口を半分に開け、赤い血を流す彼は、焦点の定まらない、飛び出した2つの目でこちらを見つめ、何かを口にした。


当時の私は、少年が何を言ったかは全くわからなかった。ただ、驚きと興奮で、その場に

佇んでいた。勿論、その日の夕食は喉を通らなかった。


次の日、学校の運動時間で友人の1人が転び、足に怪我をした。彼の足から流れる血を見た時、自身の目を疑った。本来なら赤い血が流れる筈…常識だ。


しかし、彼の足から流れ出たモノは灰色の液体。赤ではなく、灰色だった。最初は土が混じっているのかと思った。だが、違う。友人は痛みに泣き叫んでいる。


先生が駆け寄り、灰色の液体に消毒液をかけたのを見て、やはりあれは血液だと自覚した。

それから全てが可笑しくなった。


事故やテレビの映像、写真、絵、全てに描かれる血が灰色に見えるのだ。

勿論、自身から流れる血も灰色。何かの病気、

例えば“色盲”かとも思い、親にも相談した。医者にも診てもらった。


だが、結果は異状なし。灰色の血が目に映るたびに、私は狂ったように叫び、周囲を困惑させ、孤立し、学校にも通わなくなった。両親も私の世話を放棄し、他の家に預けられた。


あてがわれた部屋で、1人手首を切り続けた。皮膚に走るいくつもの線から、うっすら

滲み、灰色が、赤に変わるまで、何度も、何度も切りつけた。


その内、気づいた。小学生の頃に目撃した事故。あれから全てが狂った。子供から流れる血は赤かった。あの時、彼が何かを喋った。あれを再現できれば…



 以上が、事件後の捜査で、彼の部屋に残された手記である。事件当日、彼を目撃し、生存した関係者はこう語っている。


「子供達を刃物で追いかけ回しながら、彼は何度もこう言っていました。


“やっぱりだ。みんな、灰色だ。畜生、畜生”


刺された子供や通行人達から流れる血を見て、何度も叫んでて、完全に狂ってる

感じでした。


そうして、最後は自分の首を(ここで、目撃者は吐き気を催した様子で口元を

抑える)


すいません、ええ、大丈夫です。はい、首を刺して、流れる血を見て…その…

笑ったんです。笑いながら、血交じりの泡を吹きながら言ったんです。


“何だ、最初から、こうやれば良かった。やっと赤い血が流れた”…(終)



 

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