第8話 山崎颯太はデートがしたい。

「シェアナ、逸れるなよ」


「分かってるー」


本日土曜日、天気は快晴。

俺とシェアナはとある用事で街まで繰り出していた。


家から15分ほど歩いて着いた場所は大きめのデパート。目的地は3階にある。


「シェアナ、着いたぞ」


俺たちの目的地はここ、制服専門店だ。

前々から学校へ行く手続きをしていた事もあり、制服を今日は採寸に来たのだ。


「ここ?」


「そう」


シェアナと会話をしながら、中に入る。


「いらっしゃいませ」


するとすぐにスタッフの女性が対応してくれた。


「予約をしていた山崎です」


「はい、お待ちしておりました。留学生様の採寸ですね。早速お測り致しますのでこちらへどうぞ」


「ほら、行ってこい」


「……でも」


どうやら俺にも着いてきて欲しいのか、袖を握って離さない。

このシチュエーションには大変萌えるのだが、流石に採寸する中には入れない。


「ほら、学校行くんだろ? ここで待っててやるから。がんばれ」


そう言ってポンポンと頭を撫でてやると安心したようにコクン、と無言で頷いた。


他の店員さんには「あらあら」と初々しいものを見る目で見られ、顔が熱くなった。


シェアナが店員さんと試着室へと消えていくのを確認し、俺は近くのイスに腰掛ける。


きっと、制服姿似合うんだろうなぁ……


そんな事が頭をよぎるーーーーが、そんな妄想は振り払い、俺は今後の予定を考える。


今は絶好のチャンスなのだ。


基本、シェアナは自分から人混みに行こうとはしない。今日は『制服を作りに行く』という予定があったための外出だ。

つまり、このチャンスを不意にはできないのだ。謂わば、これはデートなのだから。


さて、これからの予定だが、このデパートで遊ぶとなると、シェアナは嫌がるだろう。

なんせ今日は土曜日で、人も多い。だったら、家の近くの公園はどうだ?人もそれほど多くないし休みの日はクレープ屋さんが来てる。


よし、これで行こう!


「山崎さーん!」


そんなことを考えているうちに試着が終わったようだ。


「はいはいはーい」


呼ばれて駆け寄ってみると、試着したからウチの制服を着たシェアナが出てきた。


そのあまりの可憐さにごくり、と喉がなった。


「どう……かな……?」


「お、おう……可愛い……と思うぞ」


「ホ、ホント?」


「嘘言ってもしょうがないだろ……」


「そっか……えへへ……」


俺に褒められた事が嬉しいのか、はたまた照れ隠しか、シェアナは薄紅藤色の髪で顔を隠した。


はっ……!


俺はそんな甘酸っぱいやりとりに夢中でここが店の中だということを失念していた。

その証拠に、俺たちの会話に当てられたように顔を赤くする店員、ニヤニヤする店員で溢れていた。


この後、支払いを済ませた俺とシェアナは足早に店を出た。




***




「シェアナ、帰り公園寄ってかないか?」


「公園? なんで?」


「クレープ買ってこうぜ」


「いく!」


そんなやりとりをして公園へ向かう。


公園に着くと公園には数人の子供とその親しかいなかった。これじゃ、クレープ屋も火の車だろうな。


「いらっしゃい!」


「俺はチョコバナナ。シェアナはどうする?」


俺はいつもチョコバナナを頼むので即答。シェアナはその日の気分によって決まるのでメニュー表とにらめっこをしていた。


「ん〜…………………………これっ!」


シェアナが指差したのはブルベリーとラズベリーが乗ったもの。


「それじゃあこのベリー&ベリーってやつください」


「はいよ!」


数分で出来上がったクレープを店のおじさんから貰い、俺たちは近くのベンチに腰掛けた。


「ん、やっぱクレープはチョコバナナに限るな」


やはり、チョコとバナナと生クリームの相性は抜群である。先人は偉大だ。


「んむぅ〜!!!」


シェアナはというと、生クリームいっぱいのクレープを頬張り、口に生クリームをつけながら足をバタバタさせる。


余程美味かったらしい。


そんなシェアナに癒されながら俺はクレープを口に運ぶ。


「ねぇ、ソータのクレープも頂戴!」


「えっ?」


有無を言わせず、シェアナが俺のクレープにかぶりつく。


「はい! ワタシのもあげるから!」


ニコニコしながらそんなことを言う。こっちの気も知らないで。


「お、おう……ありがとな」


これって所謂間接キスってやつじゃあ……


躊躇う俺に「?」マークを浮かべるシェアナ。


えぇい! ここで怯んでいては男が廃る!


俺は思い切ってシェアナのクレープにかぶりついた。


「うん、うまいな」


「でしょ!?」


嬉しそうに笑うシェアナを他所に、俺の顔は自分でもわかるほど熱く、赤くなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メドゥーサちゃんは恋がしたい。 けにお。 @kenio_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ