最終話 最高の沈黙
最高の沈黙
♫長い沈黙にも慣れてきた
冷めた横顔が得意になる
二人 腕をからめ歩いてた
遠いずっと遠い記憶
〝君がいた夏〟 by小柳ゆき
「どうした?・・・具合でも悪いのか?・・・」
「・・・この曲、いいね」
助手席に深く
10月19日の日曜日、第三京浜に夜が訪れていた。
二人を乗せた車はオレンジ色の光を
「何だそうだったのか、話の途中で急に黙っちゃったから心配したよ」
マキの沈黙が、マキの為に選んだアルバムに耳を傾けてくれていたからだと分かった
「曲、気に入って
「・・・ね、
マキはそう言った後、
「・・・いいけど・・・
「和食の美味しいお店があるよ」
「そっか、地元だったな、あの辺り」
「うん」
「じゃぁ、案内して」
「了解」
マキは嬉しい声を
雨は
交差点を
「・・・・・」
ちゅうぎん通りに車を向けて
全面ガラス張りの店舗からは
車はスモールランプを点けたままアイドリングを続けていた。
メインパネルに埋め込まれたデジタル時計は7時10分を表示していた。
「・・・・・」
涼介は美容室の様子を
♫一人
君が帰らない夜に
繰り返し口ずさむ歌は
好きだった あの歌
〝君がいた夏〟 by小柳ゆき
「・・・・・」
マキは
(涼介、まだ
思い出していた。
(会いたい・・・)
知らなかった。
(・・・会いたい・・・)
助手席の
マキの
「マキ、
「・・・えっ!!? っうん、
マキは
「その
「えっ!?
涼介に〝さよなら〟と背を向けた次の日、
「そうなんだ」
「・・・〝やるじゃん〟って感じなんだ・・・最近なかなか会えないけど
マキは涼介の
「へぇ・・・マキって相談されるタイプの方だと思ってたよ。」
「そんな強くないよ、私・・・」
「そっか」
(・・・やるじゃん、か・・・)
マキは
エリカは美容室の
ローライズのジーンズが似合っていた。
涼介はポケットに両手を入れ、助手席のドアに背を
「横浜公園で降りよっ」
長い
マキの目の前にランドマークタワーやインターコントネンタルの
「・・・・・」
涼介に気付いたエリカは、ゆっくりと
同僚達はエリカの行動を目で追いながら、外の
「・・・・・」
ガラスに張り付いたエリカは涼介に軽く手を振った。
「・・・・・」
涼介は両手をポケットに入れたまま、少しだけ
「ん??
「かもしんないけど、横浜公園で降りよっ」
「・・・OK」
「ありがと」
マキは
街の
歩道を行き交う人達が涼介の目に
エリカは小さな
涼介は変わらず両手をポケットに入れ、車に
(涼介・・・〝
マキは久し振りに戻る
「・・・・・」
美容室から出たエリカは歩き出す前に涼介と視線を重ねた。
「・・・・・」
涼介は柔らかい
「・・・・・」
エリカは
歩道のインターロッキングは濡れ残っていた。
二人の間を多くの人達が行き
「・・・・・」
歩行者を
「・・・・・」
涼介はエリカが見せている
♫世界中の誰より
私の心を照らした
愛をからだに感じてた
君がいた夏 忘れないよ
〝君がいた夏〟 by小柳ゆき
(会いたい・・・)
山下町のBARで涼介に
「お待たせっ」
「お疲れ」
「元気っ?」
エリカは
「・・・んー・・ちょっと落ち着いたな」
「??・・・リョウ、
「似合ってるよ、髪」
「・・えっ!? あ、そうだったね、さっきメールで言ったもんね・・ありがと」
「・・・なぁエリ」
「何?・・・」
「どうぞ」
涼介はポケットに
「うわっ、覚えててくれたの!! 嬉しい!!」
「誕生日おめでとう」
「嬉しっ!! ありがとっ!!・・・でもリョウ、今日19日だよ・・・誕生日・・今日じゃ・・・ないよ」
「だよな・・・でも待てなかったんだよ26
「えっ!! 嬉しい!! 誕生日も覚えててくれたんだね、ありがとう!!・・・」
「だから26日は何もないぞ」
「うそーっ! やだっ!」
「・・・25歳だっけ?」
「うん・・・で?・・・」
エリカは更に嬉しさを
「・・・
「うん・・・で??」
後ろ手に持ったトートバックを揺らしながら涼介の問い掛けを笑顔で流し、エリカは約束を
「休んでくんないか?」
「えーっ・・・んー・・・厳しいよそれ・・・」
「横浜行くから」
「うそっ!!」
「
「うそうそっ!!」
「・・・だからさ」
「うそうそうそっ!!・・・」
エリカは
「純一夫婦って
「純一・・夫婦??・・・」
「大親友さ」
「・・・嬉しい・・・本当?・・・」
「・・・??・・・どうした?」
「・・・・・」
エリカは涼介を見つめ続けられず口を
「・・・本当だよ」
「
エリカは
「そっか」
「だって・・・リョウが住んでた横浜、リョウと一緒に行きたいってずっと思ってたんだもん・・・」
「そっか・・・」
「嬉しい・・・ありがとう・・・」
エリカの声は小さく、
「誕生日はちゃんと祝うから」
「リョウ・・・」
「でもそれは
「バカ・・・」
エリカはそう言ってはにかみながらまた
「?・・・おいおい・・・どうした?」
「だって優しいんだもん・・・嬉しいんだもん・・・」
少し冷たい
エリカは
「・・・・・」
涼介は
「なぁエリ、ゼノンの逆説覚えてる?」
「・・・覚えてる・・・けど・・・やだ」
「ははっ」
「だって・・・今直ぐキスしたいんだもん・・・」
少し
「・・・エリ、それは俺の
月が見えていた。昼間の
プレゼントはエリカの右手にしっかり握られていた。
エリカの
歩道を歩く人達は二人のシルエットに優しい瞳を向けていた。
涼介は
エリカは
街を
「・・・まだ足りない?」
「・・バカ・・・」
「愛してるんだ」
涼介はエリカの肩に両手を掛けたまま
「・・愛してる・・・」
エリカは涼介と
「リョウ・・・もう一度言って」
「やだ」
「ケチ・・・」
エリカは
涼介は人に見せた事のない
見つめ合う二人の
「・・・彼女、先輩?」
自分達をじっと見ている一人の女性に涼介は気付いた。
涼介の視線の先には、店内を
「・・・ううん、さゆり・・・この前リョウに会う為にご
涼介の問い掛けで美容室に振り返っていたエリカは、涼介と向き直った
「彼女、
涼介はそう言いながらエリカのトートバッグを
「ううん、さゆりも早番で仕事は終ってるの・・・全部見られちゃったかな・・・」
エリカはばつが悪そうに涼介からバッグを受け取った後、もう一度振り返り、今度は大きく手を振った。
「明日大変そうだな」
思い掛けないエリカの行動に
「大丈夫、もう慣れちゃった」
「・・おっと、それはどういう意味かな?」
「えへっ・・・いいじゃない・・・そういう意味よ・・・ねっ、それよりお腹空いちゃった」
美容室を
「・・なるほど、了解・・・じゃぁエリっ、運転してよ」
エリカの切り返しに涼介は明るくそう言い返した。
「えーっ、何でーっ」
「だって横浜で年越すんだぞ」
「何それ・・・ほんと
「いいじゃんかさ、たまには」
涼介はその言葉と笑顔をエリカに残し、体を反転させて助手席のドアを開けた。
「もうっ!!・・・」
助手席に乗り込んだ涼介にエリカは
涼介は穏やかな
「・・・じゃぁ、焼肉っ」
運転席に乗り込んだエリカはトートバッグを後部座席に置き、シートベルトを付けながら
「和食にしようよ」
「やだ!! 美味しい焼肉!」
「・・・了解」
「よし!」
エリカはくしゃくしゃの笑顔を涼介に残し、イグニッションを回した。
「・・・エリ」
「はい?」
「今忙しい?」
「何?・・・」
「俺の事好き?」
「・・・嫌い」
エリカはハンドルを切り返し、車をバックさせていた。
「何だって?」
「・・・・・」
「・・・それで?」
前後の確認で
「んー・・・やっぱ嫌い」
車を
「やるじゃん・・・」
「・・・あっ、そうそう、指輪が一つ
「・・・そうだな、あったな、歯ブラシの横に」
THE END
ぬるい恋愛✉ 美位矢 直紀 @meeya
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