30 本質への回帰
本質への回帰
市街から抜け出る
「長いな・・・」
涼介は目の前の赤信号に少し
「またか・・・」
走り始めたと思った矢先、三つ先の信号が黄色に変わっていた。
早く自宅に戻りたい衝動に
「ほんと、雨とデブと赤信号は・・・嫌い・・・か・・・」
前方の車がそれぞれのブレーキランプを点灯させ始めた時、涼介はそう
助手席のガラス越しはなだらかな丘になっていた。その丘の先に、涼介の自宅があるマンションの上層部が見えていた。
(ふうっ・・・
自宅へ帰る
「・・・休みなんだからゆっくり休むもんだぞ・・・ん?・・そうか?・・何か日本語変だったか?」
涼介はマンションの地下一階に在る駐車場を歩きながら恭子の笑い声を耳に当てていた。
「まぁそういう事だよ、ご苦労さん・・・了解、それじゃ明日改めて」
エントランスの奥に在るエレベーターホールで涼介は恭子との穏やかな会話を閉じた。
マンションの駐車場に車を
(立ち会ってたのかよ・・・ふふっ・・岡部らしいな・・・)
エレベーターに乗り込み八階フロアのボタンを押した後、一息つくように壁に寄り掛かっていた涼介は、休日出勤をして魚町店の
「?・・・」
目の前に長く延びている室内共用廊下に靴音を
ドアレバー近くの
(何だろう・・・)
涼介はその紙に手を伸ばした。
スポットライトが玄関を照らし、ドアの前で動かない涼介の背中を照らしていた。
「あいつ・・・」
涼介は二つ折りにされていた紙に書かれていた文字に、そう一言呟いた。
「〝どこにいるのー!?〟・・・か・・・」
ソファの
「参ったな・・・」
涼介はそう声を出し、冷蔵庫の扉を開けてウィルキンソンに手を伸ばした。
(まったく・・・)
午後のメールではメモの件に一切触れず、昨夜から電話もせず、
リビングは
キッチンからコーヒーのドリップ音と柔らかいコーヒーの香りが届いていた。
涼介は体をソファーに深く沈み込ませ、センターテーブルに足を投げ出し、落ち着く香りに包まれながら、誰にも邪魔をされない一人の時間に身と心の回復と
「そうだ・・・」
昨夜、車の中に置きっ放していた携帯電話をコンビニエンスストアの駐車場で開いた時、メール以外に純一からの着信が二度残っていた事を涼介は思い出していた。
「もしもし・・・」
涼介はマグカップにコーヒーを注ぎながらそう言った。
「・・・はいはい・・・どうよ?・・・まぁ、普通かな・・・」
マグカップに一度唇を当てた涼介はそう言った後、ゆっくりとソファーに座り、センターテーブルに足を投げ出した。
「・・・そうそう・・・だよなぁ・・・ああ、いいんじゃない」
涼介は純一と交わすスローな会話が好きだった。
思いや願いは、
「了解・・・ああ、そうだね・・・そういう事かな・・・」
「・・・はいはい・・・じゃ、よろしく」
涼介は切った電話を自分の胸の上に置き、瞳を閉じていた。
想像や妄想は、涼介の顔をだらしなく
「そっか・・・悪くないな・・・」
純一の言葉を心で整理した後涼介はそう呟き、センターテーブルに投げ出していた足を下ろして右腕に目を
(5時40分か・・・シャワー浴びなきゃだな)
エリカを迎えに行く
小倉の街は夜を迎えていた。
空には昼間の明かりが名残り惜しそうに
「このまま止んでくんねぇかな・・・」
ベランダに出ていた涼介は、目に
コーヒーの香りはユーティリティまで届いていた。
洗面台の
(・・・なかなかいいんじゃない?)
涼介は服を脱ぎながら振り返っていた。
(いいじゃん・・・)
圭子とエリカを並べてイメージしていた。
(なるほどな・・・)
更に涼介は圭子とエリカの横に純一と自分を加え、四人が食事をしているシーンをイメージしていた。
(〝彼女連れて来いよ、四人で飯でも喰おうぜ〟・・・か・・・)
涼介はシャワーを浴びながら、久し振りに中華街で年を越さないかと持ち掛けて来た純一の電話での言葉を再度思い返していた。
(圭子と会うのは何年振りになるんだろう・・・)
涼介が圭子の顔を涙で
「!!・・・」
涼介は〝はっ〟とした。
ぬるいシャワーが背中を打ち付けていた。
圧は強く、背中を打ち付けていた。
「そっか・・・」
少し
及ばない客観と情けない自分の思考に強い衝撃を受けた涼介は、シャワーを浴びている体を動かせなかった。
(何やってんだろうな
純一の提案は圭子の
(・・・・・)
圭子は涼介の
涼介は圭子の心に一生残るかもしれない傷を付けていた。圭子にとって当然それは許し
(まだまだだな・・・)
涼介は電話口の純一や、通話中ずっと
涼介の自宅にはエリカの物が
(そっか・・・まあ・・・そういう事なんだろうな・・・)
シャワーを浴び終えた涼介は、部屋に
リフレッシュという、気力や意欲を
(・・・・・)
深い
(
涼介は瞳を閉じ、圭子や純一、まゆみやエリカに感謝していた。同時に四人との出逢いをくれた、
(愛情ってのは
涼介はコーヒーを飲み干した。
「
涼介はそう呟き、携帯電話に手を伸ばした。
(出会い系か・・・)
(・・・〝包容力〟・・・〝安心感〟・・・〝同じ価値観〟・・・〝優しさ〟・・・〝嘘を付かない人〟・・・)
涼介は
(・・・〝煙草を吸わない人〟・・・〝髪の毛の薄くない人〟・・・〝太ってない方〟・・・〝背が高い人〟・・・)
涼介はスクロールしていた。ただ、淡々とスクロールボタンを押し続けていた。
(・・・〝若く見られます〟・・・〝彼氏が居る様に見られます〟・・・〝仕事が忙しくて出会いがありません〟・・・)
涼介はソファに体を投げ伸ばした
「ふう・・・」
キッチンにしては多過ぎるダウンライトの光が、
「・・・ふぅ」
涼介は身体を起こし、何かを
「ぬるいな」
涼介は
(ふふっ・・・しかしまぁ・・・それは俺だよ・・・)
愛情の
「時間だ」
身も心もエリカとのデートに集中する為に涼介はその言葉を
涼介は出会い系サイトをスクロールしながら反省という、同じ
〝ウィーン・・・ウィーン〟
「・・・ん?」
その振動はウォークインクロゼットに向かおうとしていた涼介を振り向かせた。
「ふぅ・・・」
センターテーブルの上で二回振動して止まった携帯電話に涼介は直ぐ手を伸ばさず、天井に向かって大きな息を一つ吐いた。
■受信メール■
愛?・・・何??^^
そんな事ずっと前から知ってたよ
でも今夜 もう一度言って!
■エリカ 2003/10/19 18:20■
(あいつ・・・)
涼介は久し振りに自分の
「まったく・・・」
涼介は自分の顔が〝照れ〟に
(・・・さて、と)
涼介は
ソファにはバスタオルが放り出されたままになっていた。
キッチンのダウンライトは
ダイニングテーブルの上には空になったウィルキンソンが
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