桐生聡の結婚事情

結婚について俺たち兄弟は比較的早くから意識していたと思う。


昔から特権階級の人というのは特権階級で固まろうとする。

そんな特権階級のアーセルトレイの政治家一家に生まれた俺たちにとって結婚とは親が決めた良家の子女とお見合いをしていいかな、と思ったら結婚、みたいな感じだ。

というわけで兄弟みな結婚には冷めた気持ちしかない。


長兄、誠一郎兄様は「父が選んだ方だから良き女性だろう。好きになれる努力をしてみてから無理そうならまた見合い、だろうな」

次兄、修二郎兄様は「あの人の言うなりになるのは嫌だけど拒否しても面倒だし。

とりあえず結婚すれば文句ないでしょ」


誠一郎兄様は幸せになれる女性に真っ先に出会えることを願ってやまない。

修二郎兄様は勝手に幸せにしていて欲しい。引き合わされる人が可哀想だ。


俺は以前なら迷いなく言えたはずなのに、今は迷っている。

それはもちろんパーチェのこともあるが、なによりこれでいいのか?と思うのだ。

結婚は妥協と打算でうまくいくものなのだろうか。

もちろん上手くいくこともあるだろう。でもどうも自分が上手くやれる気がしない。

いつかどこかで違和感が出来て、そのうち致命的な欠点になるようなそんな気がする。


かといって結婚しないなんて許されるはずもない。

父は兄に子供が産まれたら俺はどっちでもいいかもしれないが、親戚は桐生家に相応しくない相手を選ばれたらたまらないと俺たちの結婚に対して神経質になっている。

そんな中結婚したくないと言っても絶対に認めてはくれないだろう。

結婚したい相手がいないならとりあえず会ってみるだけでも、と譲歩したように見せかけてお膳立てしてくるのが目に見える。

かといってパーチェを紹介することは出来ない。

もちろん性別もあるが、親がわからない孤児院育ちという経歴が問題だ。

猛反対されるだけならともかく中々の悪口が飛び交うに違いない。彼らに言わせればいつ何時面倒事を持ち込むか分からない相手なんて俺のためにならない、とかなんだろうが面倒事を持ち込んでるのは間違いなく彼らだ。

そんなことが分かりきってるのに会わせるなんて奴がいたらよっぽどのバカだろう。


ならどうするか。

色々考えてみたが、やはり避けるのは無理だろう。

だからもう逆らわずに婚約を受け入れよう。そう決めた。



「はじめまして。桐生聡です」



「貴女と婚約は避けられない。だから取引をしませんか?これはきっと、貴女にも都合のいい取引だと思いますよ」




戸惑う縁談相手たちを目の前にしてこの提案はきっと上手くいくと確信して僕は彼女らに自信満々に見えるよう、にっこり笑った。


これを知ったパーチェはうるさいだろうし、兄達は1人は大笑いしもう1人はため息をつくだろうと思う。でももう決めたから。


これが僕の決めた僕だけの道。

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パーチェと聡 菜乃 @sakyou_azami

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