第12話 夏色の珈琲

「珈琲の煎れ方、知ってますか?」

煙草の白い煙の向こうに、薄く微笑んだ得意気な顔が覗く。

そんなことくらい出来るさとたった今注いだばかりのそれを指差して見せれば、にんまりと笑みを深くした。

「全然ダメダメですね、せんぱい」

お手本を見せて上げますからと彼女は立ち上がってテキパキと動いた。

綺麗な所作で匂い立つような湯気があがったかと思えば、

グラスには黒々とした珈琲が注がれていた。

「夏ですからね」と一言添えて、いつの間にやらカラコロと

大きな氷に冷やされたアイスコーヒーが、彼女の手の中にあった。

どうぞと差し出された何の変哲もないはずの1杯は

暗い部屋に射し込んだ陽光に、ぼうと照らされて星のように煌めいて見えた。

ひと口含めば冷たく香る苦味が広がる。

「ね、せんぱい、どうですか」


星空を切り取ったかように何処までも美しく見えて、

カランと鳴るグラスから結露した水滴が、ぽたりと机に1つ滲んだ。

指先の煙さえ宙の色にたなびいて見えた。

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紗天の掌編 真文 紗天 @shaten

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