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あの、理奈のケータイに付いていたのと同じ、ビーズのストラップだった。
(よほど仲が良かったんだな。同じストラップなんか付けて)
ミキはケータイで話し終えると、
「ごめんなさい、急用ができちゃった」
慌てて腰を上げた。
「ああ。またお茶しに行くよ」
「ええ。それじゃ」
ミキは急いで背を向けた。
……脚、長げー。
ハイヒールにパンツ姿のミキは、パッと見、ファッションモデルのようだ。
……一緒に歩きたくねー。
母が作った夕飯を食べると部屋にこもり、ミキから得た情報と、新聞の記事を照合してみた。
やはり、新聞には、【ピンクのパーカーを着ていた】とはどこにも書いてなかった。つまり、犯人しか知り得ない事実、“秘密の暴露”だ。
理奈は一人ではなく、ミキと一緒にハイキングをしていた。じゃ、どうして理奈だけが殺されたんだ? ……ミキが殺したのか? だが、女の力で首を絞めて殺せるものだろうか? ――警察はミキを取り調べたのかな……。
「――ケータイのストラップ、可愛いね」
二度目の呼び出しに成功すると、テーブルに置いたミキの白いケータイのストラップを褒めた。
「あ、これ? お母さんの手作り。世界に一つしかない――」
(えーっ! 一つしかない? じゃ、俺が見た理奈のストラップとは別物か? ……いや。瞼に焼き付いている、あの、理奈のストラップと同じものだ。ということは、どういうことだ? ……アッ! そうか。あれは理奈のケータイではなく、ミキのケータイだったんだ。だが、あれはシルバーだった)
「白だと、汚れとか目立たない?」
「ううん、まだ大丈夫。変えたばっかだから――」
(やっぱりだっ! あれはミキのケータイで、今のは最近買い換えたもの。……じゃ、どうして理奈の写真がミキの待受画面にあったんだ?)
「待ち受けって、なんにしてる?」
「今は、愛犬のジョンだけど、以前は親友の顔写真だったわ」
(やっぱりだっ! ……俺が見た、あの顔は間違いなく理奈だったんだ。つまり、こういうことだ。俺が拾ったのは、理奈の顔写真を待ち受けにしたミキのケータイで、俺が放り投げた後に、ミキが取りに戻った)
ミキは、理奈の殺人事件に関与している。そう結論付けた俺は、匿名でその旨を書いて警察に情報提供した。
「――殺人及び死体遺棄で逮捕されたのは、近くで工事をしていた土木作業員で、暴行目的の犯行と見られ、現在、警察が取り調べをしています」
テレビのニュースを聴きながら、俺からの手紙をもとに、事情聴取したミキから得た情報で、作業員逮捕に至ったのだろうと推測した。
いずれにせよ、ミキが真犯人じゃなくて良かった。
そして、俺はこう推測した。理奈とミキはハイキング中に土木作業員に襲われ、二人は逃げたが、理奈が犠牲になってしまった。ミキが警察に通報しようとケータイを探したがどこにもなかった。落としたことに気付いて戻ったが、理奈の姿はなかった。すぐに助けを呼ぼうとしたが、理奈を置き去りにして逃げたことで自責の念に駆られ、まともな判断ができなかった。それと、一緒にハイキングをしていたことが知れたら、理奈殺しの犯人にされるかもしれないという恐怖心で通報しなかった。
理奈さん。俺、助けてやれなくてごめんな。許してくれよな。けど、真犯人を挙げてやったぜ。少しは役に立ったろ?
何気にケータイを開いて驚いた。待ち受けにしていた恋人の顔が、なんと、理奈の顔になっていたのだ。
その理奈の顔は、感謝するかのように穏やかな表情だった。
……ま、まさか、俺の恋人になるつもりじゃないよなぁ? 待受画面さん、待受画面さん。どうか、元通りに、僕の恋人の顔に戻ってくださいっ! ……グスン。
えっ! ウッソだろ? このままで終わりかよーッ!
待受画面 紫 李鳥 @shiritori
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